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※ブラックコーヒーの続き
皆城くんが敵側から戻ってきたらしい。その知らせを人伝に聞いたとき私は破壊されたドックの修復に回っていた。
被害は大きいものの死者は出ていない。私も特に大きい怪我はなく、作業をしていたがどうも左腕が思うように動かないと感じ始めた。
どこかにぶつけたかな、と思いつつ痛みを感じていないから大丈夫だと思っていたら、先輩がそれを見て驚いた。酷く変色しており、見ている方が痛いからとメディカルルームに行くように強く言われ、仕方なくメディカルルームに向かった。
メディカルルームに着くと、そこには武装した溝口さんが入口で立っており何やら難しい顔で中を覗いていた。
「何してるんですか溝口さん」
「よー、名前。なんだかなあ・・・ほれ、中を見ればわかる」
「はあ、」
彼に促されるままメディカルルームに入る。
目に飛び込んできたのは千鶴先生とパイロットスーツ姿の一騎くん、そして制服に身を包んだ皆城くん。3人は私が部屋の中に入ってきた瞬間、驚いたような表情を見せつつどこか安心したように息を吐いた。
「あ・・・・えっと、なんかすみません」
そう告げた私はきっと間抜けな顔をしていたのだろう。3人はくすくすと笑いだした。
「苗字さん、どうかしたの?」
「その、左腕がすこし・・・・痛くはないんですけどね」
そう言って椅子に座り、左腕を出す。千鶴先生は少し触ってから顔を顰め、レントゲン室に通された。レントゲンを撮り、そしてその写真を見る。もちろん、一騎くんや皆城くんも一緒に。
「苗字さん。あのね、この画像見方分かる?」
「先輩大丈夫なんですか?」
「苗字先輩」
「ははは・・・」
その写真を見る限り、骨が綺麗に折れている。
千鶴先生は呆れたように画像をみており、一騎くんはそれを見て心配するように声をかけてきた。そして皆城くん何処か怒っているようで、私は彼らから目を逸らすしかできなかった。
千鶴先生から丁寧な処置を受け、皆城くんとともにメディカルルームを出る。一騎くんは居残りだ。
千鶴先生曰はく、皆城くんの身体データは取り終わったからもう行っていいとのこと。一騎くんはまだ検査があるらしい。そう言えばどこか顔色が悪かったような気がする。
2人でメディカルルームを出て、特に理由もなく休憩室に入る。
私は流れるように自販機でブラックコーヒーを買い、飲もうとする。しかし、左手がつるされていることを忘れていたため、缶のふたを開けることができない。
ああ、どうしようかなとぼーっとしていたら、皆城くんが横から現れてそれを奪ってふたを開けた。
「ありがとう」
「いえ」
受け取ろうと手を伸ばす、しかし皆城くんは渡すことなく缶を見つめていた。
「2年前もあなたはここでこれを飲んでいた」
「そうだね」
そう答えると皆城くんはそれを一口飲んだ。が、苦々しい顔をして嚥下する皆城くん。私はそれを見て微笑んだ。
「まだ子供だね」
「・・・・もう普通に飲めます」
「そういう意地が子供っぽいよ」
私はそう言って皆城くんの頭を撫で、缶コーヒーを受け取る。こぼさないようにゆっくりと口をつけて顔をあげる。ゆっくりゆっくりコーヒーを飲みほし、口を離すがその時少しだけこぼれてしまい、口を伝って左腕を吊っていた三角巾に垂れてしまう。
「何してるんですか、もう」
「ごめんなさい?」
皆城くんはそんな私をみてため息を吐き、私の持っていた缶コーヒーを取り上げてごみ箱に捨て、垂れていたコーヒーをハンカチで拭き始める。
真っ白いハンカチにコーヒー色のシミができていくのをぼーっと見つめていたら、そっと口元を拭われる。それがなんか幼児を相手しているように見え、少し恥ずかしくなる。それが彼に伝わったのか、彼はどこか満足げに笑った。
「今は先輩の方が子供みたいですよ」
「そういうのは思ってても言わないのが大人だよ少年」
「そういう意地が子供だって、あなたが言ってましたよ」
「ああいえばこういう・・・・・」
「あなたの影響ですね。勉強になります」
「馬鹿にしてる?」
「いいえ。本心ですよ」
それは本心から馬鹿にしてるってことかな。昔はあんなに迷子の子供みたいだったのに、と彼を見上げる。
記憶にある皆城くんよりも少し大きい彼を見て、すこしドキッとする。身長は前から彼の方が高かったが2年ぶりとは思えない会話を続けていたが、そろそろ現場に戻らないと先輩が心配してこっちに来てしまう。
皆城くんにそろそろ戻ると伝えると、おくると言って時計をみた。そこまで時間は過ぎていなかったが、楽しかった。
休憩室を出る際に、私は彼に言っていなかった言葉があったことを思い出す。これだけはちゃんと言わないと、と皆城くんを呼び止める。
「み───いや総士くん、おかえりなさい」
総士くんは嬉しそうに微笑み、片手を私に差しだしながら口を開いた。
「ただいま戻りました。名前先輩」
私は彼の手を取って隣に並ぶ。両手が塞がっちゃうな、なんて思いながらも彼の手を振り払うことをせずにそっと握り返す。
転ばないように注意しながら休憩室を出ると、出入り口のそばに溝口さんが立っており申し訳なさそうに少し片手をあげた。そこで彼が総士くんの監視をしていることに気が付いた。盗み見るように総士くんを見ると、彼は承知していたらしく特に気にすることなく私の手を引いてドックに向かう。
「遅い青春だな」
後ろから聞こえてきた溝口さんの言葉に、恥ずかしくなり手を放そうとした。だけど、総士くんは逆に強く逃がさないように握り込み、先ほどよりも少し早歩きで進む。
そんな彼の顔を見たら、すごく赤くなっていてなんだか子供みたいだなって思った。
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