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「おかえり、アスラン」



 アスランの部屋で待っていた私は帰ってきたアスランに声をかける。アスランは軽く返事をしながら上着を脱いだ。私はそれを受け取り、ハンガーにかけながらデスクの上にあるカレンダーを見る。
 2月14日『血のバレンタイン』と呼ばれる、大勢の人が亡くなった日。アスランはその日、母親を亡くした。コーディネーターにとってもナチュラルにとっても、それは忘れることのない事件である。

 アスランは一昨日行われたユニウスセブンの式典に行っていた。私も誘われたが、私はオーブの軍人であるからと遠慮したのだ。4日の短期旅行で少し疲れたのか、アスランはどこかぼーっとしていた。
 私はそんな彼を心配しつつ、彼のベットに腰を下ろす。アスランを見てみると何か思いつめた表情でカレンダーを見つめていた。



「・・・その、仲間とは会えた?」
「ああ、みんな元気だったさ」



 どことなく重い雰囲気で返事をするアスラン。
 彼の故郷はプラントだ。先の戦争で彼は故郷を捨て、オーブ軍に残ることを決意したのだ。自分が決めたと言っても母国を捨てる行為にどこか思うところがあるのかもしれない。
 昔ながらの友人とは仲がいいとも聞くし、プラントとの交流もうまくいっているみたいで時折寂しそうな顔をしているのを思い出す。
 そんな彼の様子を身近で見てきた私は、思い切って今まで思っていたことを口にした。



「やっぱり私・・・・・アスランと居る資格無い、よ」



 私はナチュラルだ。軍に志願して、戦場に出たとき初めてアスランと出会った。ナチュラルとコーディネーター。その溝は深く、分かり合えるとは思っていなかった。
 それを聞いたアスランは眉間に皺を寄せながら私に近づき、私の前に跪いた。彼の綺麗な瞳と目が合い、涙が出そうになる。



「何を言っているんだ名前。俺がオーブと、名前といることを望んだんだ」
「それでも・・・それでも、私はナチュラルだよ。君のお母さんたちを撃った奴らと同じ、ね」



 告白は私からだった。
 英雄のアスラン。皆が憧れていて、私もその一人だった。軍で偶々同じ部署にいて、それで一緒に仕事をしているうちにただの“憧れ”が、“恋”に変わったのだ。意を決して告白し、彼も同じ気持ちだと知ったときには死んでもいいと思えるくらいに舞い上がっていたのを思い出せる。。
 でも、この日が来るたびに思う。私はアスランと一緒に居ていいのかと。彼の視線から逃げるように俯く。



「名前、本気で怒るぞ」



 低いアスランの声が部屋に響いた。その言葉に涙が流れ落ちた。
 嫌だ、聞きたくない。そう思って耳を塞ごうとしたが、アスランが私の両手を包み込むように拘束したためそれは叶わなかった。



「君は俺の気持ちを無碍にするつもりか」
「そんなつもりじゃ・・・」
「だったら、」
「でも私はっ」



 そう言った瞬間アスランは私の肩を強くつかみ、そして勢いのままベッドに押し倒した。
 涙で霞む視界には、泣きそうな顔のアスランが私を見つめていた。



「もう戦争は終わったんだ!そんなのは関係ない」
「でも」
「俺だってコーディネーターだ、君たちの愛する人を撃った。君の母国を危険に晒した人間だ。それでも・・・それでも俺は名前を愛してるんだ」



 アスランは困ったように微笑み、その瞳から大きな一粒の涙が流れ落ちた。
 私のせいで胸を痛めている。私の言葉はアスランの傷を抉っているようなものだ。辛いのは私よりもアスランの方だったのだ。



「ごめん、なさい。私・・・・アスラン、泣かないで。ごめんなさい」
「いや俺の方こそ、すまない」



 いつの間にか私も涙を流していた。アスランは私の涙を拭って私を抱きしめた。
 きしむベッドのスプリングと布団のすれる音に混じる私の鼻をすする音。



「名前にこんなことを言わせるために、俺はここに居るんじゃない」
「うん」
「俺は愛してるんだ、君を」
「知ってる」



 アスランの胸に顔を埋める。彼の暖かさが伝わり、それに安心して私はアスランを抱きしめ返す。



「私もアスランが大好き。好きなの・・・・愛してるの」
「ああ、知ってるさ」



 アスランは私の存在を確かめるように強く抱きしめた。



2016.0214
2022.0708 加筆修正


 
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