人間と獣03


獣に襲われたことは、慧人に話していなかった。

今になってそれでよかったと、安心している私がいて…―――こんなにも、ユウセイを気にしている自分に驚いている。

怖い思いをしたはずなのに。

毎回、夜になると外を見てしまう。

彼が出ていった窓を開けて、どこかに居ないかと外ばかり眺めてしまう。

もう逢えないのなら、キスなんてしないで欲しかったのに―――。






「…ユウセイ?」



仕事の帰り道。

まだ日が落ちきっていない夕方の雑踏の中、ユウセイの香りが不意に鼻をついてきた。

それと同時に、何故かあの日の傷が疼いて少し熱い。

あの日以来、痛みさえ感じなかったのに。

慌てて振り返ると、周りより少し背の高い男性の後ろ姿が目に入って、今までの人の流れを無視して追いかけた。

ぶつかる人の視線なんて気にしていられない。

待って。

ユウセイ、待って。



「…ユウセイ!」



角を曲がった彼を追いかけて、彼の名前を呼んだけど…―――もう彼の姿はなかった。

別人だったのかもしれない。

いま思えば、耳も生えてなかったし、人間の後ろ姿だった。

でもあの匂いはユウセイだった。




逢いたい。

せめて、もう一度だけでも―――。

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