――遡ること2時間前。
いつもより遅い退社になり、急いで最寄り駅からアパートまでの夜道を歩いていた。
もうすぐ夜の11時を過ぎる。
その時間を過ぎて夜道を出歩くというのは、自殺行為に近いものになる。
遥か遠くにそびえ立つ塀。
そこから、違法にやってくる獣がいるとか、いないとか。
実際に私はソレを見たこともないけど、生まれてからずっとその話を聞かされてきた。
深夜に出歩いていた人が襲われたというニュースも見たことがある。
だから急いで帰ろうと思っていた矢先――
「キャッ…」
急に後ろから身体を押されて、その場に倒れ込んだ。
手に持っていた鞄が引っ張られて無意識に力を入れて抵抗する。
何が起こったのか分からず、怖くて目も開けられず、スギッと感じた腕の痛みに声を上げることすら出来なかった。
「いい女じゃねぇか…こんな時間に」
聞こえた声に、思わず目を開けてしまった。
目に入ったソレに、思わず身体を起こして後ずさりした。
実際には立つこともできなくて、ズルズルと身体をソレから離そうと足掻いただけ。
人間じゃないのに、言葉を話すソレは…私に覆いかぶさるように近づいてきた。
どうして。
まだ時間は大丈夫なはずなのに。
「…け、けもの……」
「人間の女は久々だからたまんねぇな!楽しませてくれよ…ケケ」
「やだ、やめて…来ないで…」
痛みがあった腕はズキズキと痛んだ。
生温かいものが皮膚を伝う感覚がする。
血が流れてる…そう思うも、今は早くここから逃げないと確実にヤラれてしまうというのに動かない身体を動かすのに必死だった。
それなのに、その声さえも出てくれないなんて。
「…じっくり、味合わせてもらうよ」
狼のような風貌のソイツが舌を出して近づき、爪の長い手を私にかけた。
食い込んで痛いというのに、小さな悲鳴しか上がらなくて、怖さでガタガタと震えて、もうダメだと目を閉じた――――その時だった。