その愛に触れたなら05


「結婚すると聞いた!」

「え…何故それを……」

「やはり本当だったんだな!そうか……なっ!何故泣いているのだ!何故…」



途端に目から涙を流すゆき乃に、煉獄はあからさまに狼狽えた。

宇髄ならその理由がすぐに分かったかもしれないが、そういう類のことが苦手な煉獄は、ゆき乃がこの結婚を心から望んでおらず、それを煉獄に知られたことで涙を流していて、まさか自分を好いているだなんて到底思いつく訳がない。

咄嗟に距離を詰めてゆき乃の肩に手を置いたが、その先のことは煉獄を躊躇させた。

自制しなければ彼女を抱き締めようとしていた事にも驚いたが、その理由を漸く煉獄自身が理解した。

ただ理解したところで、ゆき乃は結婚してしまう。

流している涙を拭うことも、抱き締めることも…自分にはその資格すらないのだ。

様々な葛藤が生まれどう解決したらいいかも分からなかったが、やはり煉獄の性格上、自分の非すら認めて隠さない彼だからこそ、その想いを消すことが出来なかった。



「申し訳ない」

「いえ、私こそ…煉獄様の前で涙など……申し訳、」



ゆき乃の言葉は、煉獄によって遮られた。

自身の想いを伝えるだけにするつもりだった煉獄だったが、涙目で自分を見上げるゆき乃にその想いが抑えられなくなってしまったのだ。

突然のことに言葉が止まったゆき乃。

大きな煉獄の体に包まれて、また別の涙を流した。



「俺はゆき乃を好いている。確信したのは先刻だ。申し訳ないと言ったのは、それを隠すこともできずにこうして伝えて困らせることを詫びた。俺は自分を偽るのが苦手だ」

「……」

「勝手な男だと思ってくれて良い。ゆき乃が幸せになることを望んでる。だがそのような涙を流されると……離したくなくなる」



強くなる煉獄の抱擁に、初めて知る彼の想いに、ゆき乃の目から止めどなく涙が流れる。

夢のようだと、ゆき乃は煉獄の羽織を掴み、静かに手を回した。

胸の奥に押し込んでいたゆき乃の想いも、煉獄の熱によって溢れていく。



「離さないでくださいっ……私は、煉獄様が好きなのです。好きになってしまいました。あなたに毎日、さつまいもの味噌汁を作り、笑顔で迎え無事を祈り見送る毎日を想像してしまっておりました……私はっ…」

「俺も、いつもこの家に来るとゆき乃がおかえりと迎えてくれる事が嬉しかった。無意識ではあったが、それが心地よくてこの家に来ていたと思う。気付かぬ内に、ゆき乃を愛おしく思っていたのだ。だからそれがもう手に入らないと知って、後悔したくなかった」

「煉獄様…」

「俺はきっと早くに死ぬ。成し遂げなければならない事があるからな。それでも、ゆき乃を幸せにしたいと思っている。いや、幸せにする!」



ゆき乃の肩を抱き距離をとった煉獄は、涙で濡れているゆき乃の頬を指の背で優しく拭った。

月明かりに照らされた二人の顔は、どちらも紅く染まっている。

好きだ、と煉獄が囁くように想いを吐き出すと、その顔をゆき乃に近づけ、涙で濡れた唇に口付けた。



「ゆき乃の側にいられて、俺は幸せだ!」

「私も幸せでございます、煉獄様」

「…杏寿郎だ。そう呼んで欲しい」

「杏寿郎様」



照れたように煉獄の名前を呼んだゆき乃に、煉獄は目を細めて笑った。

ゆき乃が見る、初めての煉獄の笑顔だった。

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