続・その愛に触れたなら01


山間に佇む一軒の家屋。

まだ人が住み始めて少ししか経っていないにも関わらず、家主が出入りをすると大きな声が響き渡ることで有名だった。



「うむ!では行って参る!」

「お気をつけて…どうかご無事でお帰りください」

「ゆき乃」



家主である煉獄は、妻となった娘ゆき乃の名を優しく呼ぶと、大きな手を彼女の頭を撫で、それからその手を下げて頬から顎に触れると、紅らめている彼女の唇にそっと口付けた。

必ず帰るという煉獄なりの意思だった。

言われずともそれを分かっていたゆき乃は、煉獄が無事に帰れるようにとキュッと炎の羽織を掴みその想いを込める。

新婚の二人にとって、束の間のスキンシップだった。







煉獄との生活は、今までやっていた事の延長だったため、家事をすることは何も問題はなかった。

ただ一人で彼を待つということが不安で、彼がいつ無事に帰ってくるかと、あの大声と共に扉が開くのを毎日毎日待つ日々だった。

それは、煉獄と共に生きると決めた時から覚悟していたことだったから、ゆき乃はただ祈るだけしかできない。

帰ってきた煉獄を笑顔で出迎え、彼の好物を作ることが、自分に出来る支えなのだとより家事に奔走していた。



「ごめんくださーい!」



洗濯物を取り込んでいると、聞き慣れた声が部屋に響く。

玄関には手荷物を持った千寿郎が笑顔で立っていた。

本来なら、煉獄家に入るつもりだった煉獄とゆき乃だったが、彼の父がそれを断ったために、実家近くのこの家に住むことにしたのだ。

まだ小さな弟が心配だった煉獄だが、こうして自分の不在時に家を行き来していると聞いて凄く安心していた。



「千寿郎くん、こんにちは」

「こんにちは!さつまいもを沢山頂いたので持ってきました!兄上が好物だから。それと…藤の花の香です」

「お義父様から?」

「はい、何も言いませんが、義姉さんの事を気にかけてます。夜に一人なのが心配なんだと思います。僕が持っていく荷物の近くに置いてありました」



ゆき乃はそれを有難く受け取り、お礼に手紙と作った団子を千寿郎へ渡した。

煉獄の父の事は、煉獄自身から聞いていたので、ゆき乃は深入りすることもなく普通に接していた。

彼の家に出向いても何か言われるでもなかったが、こうして気にかけてもらえるだけとても有難かった。

藤の花の香は、煉獄からも用意されていたが、それでも身を案じて用意してくれるので、心根はとても優しい方なのだとゆき乃は思っている。

出来ることなら、煉獄とのわだかまりが無くなればと思うが、そこは自分が立ち入るべきではないと、何も言わないことにしたのだ。



「今度また家に来てください!僕も兄上に会いたいから」

「ぜひ遊びにいくわ。杏寿郎様も千寿郎くんに会いたいといつも言っているから」



ゆき乃の言葉に嬉しそうに微笑んだ千寿郎は、大手を振って帰って行った。

自分の弟より小さく、また煉獄にとても似ている彼をゆき乃はとても気にかけていた。

いつか煉獄との間に子を授かることができたなら、きっと彼に似た子になるだろう…と。

そこまで考えて、一人で顔を赤らめたゆき乃は、それを誤魔化すように夕げの支度を始めた。

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