相思双愛 01


濃紺色の空が広がり、月夜が眩い夜だった。

真夜中に差し掛かろうとしている時間に、この藤の家の一室で、重々しく不穏な空気が流れていた。



「動かないでください!私が処置しますから!」

「離せェ!これくらい何でもねェ!」

「兄貴、俺、」

「オイ黙れェェ!俺に弟はいねぇって言ってるだろォがァ!そもそも何でテメェがいる!足手まといなんだから今すぐ消えろォ!」

「静かにしてください!風柱様も玄弥も!!いいですか、まずは風柱の処置が先です!それから風柱も!二人の間にあった事に口出しするつもりありませんけど、今は耐えてください。玄弥も任務の同行者です。指令は絶対だと前に私に言ったの覚えてるでしょう?!」



風柱の脇腹を切り裂いた傷を縫い、ゆき乃は応急処置を施した。

柱ともあろう彼が傷を負うような任務ではなかったはずだった。

指令が入り、ゆき乃は花街に潜入し調査をしており、定期的に外で待機している同期の玄弥へ情報を伝達していた。

それが今日突然、一度撤退するよう指示が入り、ゆき乃はその通りに準備をしていた矢先、鬼の襲撃にあったのだ。

管轄内だった風柱がすぐに応援に駆けつけ、ゆき乃と玄弥では苦戦した相手でも柱であれば問題ない。

そう誰もがそう思っていたのだが、慣れない花街特有の着物を着ていたゆき乃の動作が鈍り、それに気を取られた玄弥に鬼の攻撃が走った。

鬼に背を向けていた玄弥からは見えていなかったが、その瞬間、遠くにいた風柱が目に見えぬ速さで鬼の前に立ちはだかったのだ。これはその時に受けた傷だった。

兄弟の間に溝があることを玄弥から聞いていたゆき乃は目を疑ったが、それを風柱は認めないだろうと思ったので、黙ったまま処置をした。

本当に、似てる兄弟だと改めて思う。

風柱とは何度か任務を共にした事もあり、以前玄弥から聞いていた好物をこっそり持っていった時に見た和らいだ表情は、玄弥とそっくりだ。



「出来ました!はい、次は玄弥の番!」

「違うだろォ……お前、見せてみろ」

「へ?」



風柱に腕を捕まれ、着物の袖を捲られた。

白い肌を伝う血は少量。

だがそれを見た二人は同じタイミングで舌打ちをした。



「まずはお前の手当だァ!」

「何で言わねぇんだよゆき乃!傷になんだろ!」

「……いや、でも」



でもじゃねェ!

二人の言葉が重なったが、視線が絡む事はなかった。

近くにいるのに目も合わせられない関係を悲しく思う。事情もあるし口を出すつもりもないが、あからさまに悲しんでいる玄弥を見ると、痛たまれない。

風柱は、玄弥を助けようとしたのに。

だけど、二人して心配をしてくれている姿に、ジワリと胸の奥が熱くなった。







風柱に手当をしてもらい、湯浴みをし、寝間着の着物に袖を通し部屋へと戻った。

もしかしたら風柱の姿はないかもしれない。

そう思って襖を開けたが、意外にも風柱はまだ部屋にいて胡座を掻いていた。

二人に距離はあるものの、ゆき乃はそれが嬉しかったのだ。



「風柱様も、今晩はこちらに?」

「……この部屋しかねェんだろ?帰るわけにはいかねェだろォが」

「え?何故です?」

「チッ……馬鹿かテメェは」

「じゃあ皆で寝ましょう!ほら布団も用意してくださってますし!玄弥は風柱様の隣でいい?」

「いや!ゆき乃の隣で!あ、いやでも……それも問題あるっちゃあるけど……あの、」



玄弥がチラリと風柱を見る。

それを知ってか知らずか、風柱はゆき乃に向かって「お前が間で寝ろォ」と真ん中の布団へゆき乃の背中を押した。

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