願わくば、君と 01
「只今戻りました!」
町外れに佇む一軒の重厚な屋敷。
広い庭には藁と竹で作られた多数の打ち込み台があり、奥には手合わせをする道場も用意されている。
此処は炎柱・煉獄杏寿郎の邸宅だった。
日が昇り、庭を陽光が照らしている中、鍛練をしている師範である杏寿郎に声を掛ける。
杏寿郎が振り返るのと同時、ゆき乃はその場に片膝をついて頭を下げた。
「うむ、無事に帰ったようだな!ご苦労だった!」
「はい!今回の鬼ですが、」
「ゆき乃」
名前を呼ばれて顔を上げたゆき乃の頭に、彼の大きな掌が乗る。
途端に頭上が温かくなり、その熱はゆき乃の心までも温めた。
「報告は後でよい。まずは汗を流しなさい。それからその腿の傷の手当だ」
「……師範には隠せませんね」
「当然だ!継子のお前のことは何でも分かるぞ」
そう言って笑った杏寿郎の笑顔が、眩しくて直視できなかった。
ゆき乃は、そこまで強くもなかった鬼から傷を受けてしまった事が悔しかった。
だから黙っていたのに、恐らく膝をついたその動作で見破ったのだろう。
膝丈のスカートで隠れているはずなのに。
汚れを流し、泥のついた隊服を新しいものに着替えてから部屋に向かうと、杏寿郎は鍛練を中断して縁側に座っていた。
ゆき乃の姿を確認して、「ここに座るといい」と隣をポンと叩いく。
師範である杏寿郎の提案を断ることなど出来ない。
それ以前に、断る理由もない。
ゆき乃は大人しく彼の隣に腰を下ろし、今回の任務を報告した。
「申し訳ありません、師範。まだまだ鍛練が足りずに、負傷してしまいました」
「うむ!何が足りなかったのかゆき乃は気づいているのだろう?だったら問題ない。もっと鍛練をして技の精度を上げろ。そうすれば自ずと力はついてくる。その悔しさを、忘れるな!」
「はい!」
「よし!任務の話は以上だ!……傷の手当をしよう」
「あ、あの師範、自分で……」
「言ったであろう、任務の話は終わりだと。今日は非番だ」
非番という言葉に、ゆき乃は口を噤んだ。
そんなゆき乃を見て口許を緩めた杏寿郎は、自身の隊服から取り出した塗り薬を手に取ると、ゆき乃の足にそっと触れた。
温かな手が、先程よりも熱く感じる。
少しスカートを捲られた内腿にある真新しい傷に、その指が触れ、思わず顔を顰めた。
「すぐに処置をしなければ傷が残ると言っているだろう」
「でも大した傷ではありません。それに、他の負傷者の手当が優先かなと思って……ンンッ」
「よもや、そんな声を出すんじゃない」
「だって師範!わざとですよね?!」
ゆき乃の言葉に、大きな瞳を真っ直ぐ向けていた杏寿郎の表情が一瞬とぼけた顔になったが、その後すぐに妖しい笑みへと変わった。