願わくば、君と 03
「果てたのか」
全身で呼吸を繰り返すゆき乃を、杏寿郎は愛おしそうに見つめ、抱き寄せた。
それから、唇に触れ、今度は口内をその舌で犯すように愛撫する。
息を吸いたいのに絡まる舌に遮られ、その代わりに与えられる刺激に溺れていく。
合間に呼吸をする音が、妖艶な吐息になって漏れた。
まだひくひくと痙攣しているそこに、太くて骨ばった指が入り、また声が零れる。
密着する肌にこびりつく汗さえも、愛おしかった。
「好きです、杏寿郎さん」
指を動かしながら胸の先端を舌で愛撫する杏寿郎に、ゆき乃は囁くように想いを告げた。
その声に顔を上げた杏寿郎は、妖艶な顔を近づけると、優しく微笑んだ。
「素直な気持ちが聞けて嬉しい。ゆき乃…」
愛している。
そう耳元で囁くのと同時に、彼の熱くて硬いものが下半身を圧迫していった。
呼吸を止めなければ受け止められないその圧に、「クッ…力を抜くんだ、ゆき乃」と柔らかな唇が胸に触れる。
敏感になっているそこに触れられ、甘美な吐息が漏れ、ゆき乃の力が抜けると、杏寿郎のすべてが潤いに包まれた。
腰を動かす杏寿郎は、男というより雄だった。
普段なら乱れることの無い呼吸が聞こえ、名前を繰り返し呼ばれれば、また身体の奥がキュッと締まる感覚だった。
思わず手を伸ばし、彼の首に腕をかける。
そのまま背中に手を回され身体を起こされると、抱き合いながらより肌が密着し、杏寿郎のものが奥に当たった。
「この体勢が好きだな、ゆき乃は」
「だって…あッ、密着するから…ンンッ」
「俺も好きだ。こら、腰が勝手に動いてるぞ」
「あッ、あッ、だって……気持ち、い…」
「ゆき乃ッ…」
杏寿郎は、目の前に突き出された胸の先端を口に含み舌で優しく舐め上げる。
こうすると、ゆき乃が甘美な声を上げ、より潤うことを知っていたからだ。
腰を動かすゆき乃に合わせて、杏寿郎も突き上げる。
二人の接合部から溢れ出す水音が、鼓膜を支配し、淫らな世界へと誘っていく。
「あッ、あッ、ダメ……杏寿郎さ…ッ」
「ゆき乃ッ……達してもよい、我慢するな」
「あぁッ、あッ、ダメ……ッ、あああぁ――ッ!」
杏寿郎に抱きつき震えるゆき乃。
そんな彼女を愛おしそうに見つめる杏寿郎は、ゆき乃の呼吸が落ち着いてから、またゆっくりと腰を動かした。
◇
重たい瞼を上げると、目の前には少し傷のある分厚い胸板があり、身体には逞しい腕が巻きついていた。
まだお互い素肌のままだったが、それを隠すように布団が掛けられている。
微かに寝息が聞こえ顔を上げると、目を閉じても端正な杏寿郎の顔があった。
こんな風に寝顔を見られるなんて幸せだ。
暫く眺めていると、「穴が空いてしまいそうだな」と口許を緩めながら杏寿郎が瞼を上げ、いつもの大きな瞳をゆき乃に向けた。
「すみません、見惚れてました」
「ハハ、やけに素直だな!だがそんなに見つめられたら俺だって恥ずかしいぞ」
「では今度からは盗み見ますね」
二人で笑い合い、どちらからともなく身体を密着させて擦り寄った。
「身体、痛むだろう?明朝の鍛練は止めておこう」
「いけません!師範は甘すぎます!」
ガバッと身体を起こしたゆき乃は、杏寿郎を押し倒すように彼の上に乗り、両肩に手を置いた。
目を見開いた杏寿郎が、下からゆき乃を見上げる。
威勢がいいな、とその口は笑っていた。
「私を甘やかさないでください!もっともっと強くなりますから!」
「うむ、そうか」
「早く、師範と肩を並べて戦えるようになりたい」
先程の悔しさを思い出しそう言葉にしたゆき乃を、杏寿郎は優しく抱き寄せ、ポンポンと宥めるように後頭部から背中を優しく撫でた。
その温かさは、すべてを包み込むほどに広く深い。
「焦る必要はない。ゆき乃は確実に強くなっているから安心しろ。俺もゆき乃の成長が楽しみだ」
「師範……」
「だが、願わくば……君と肩を並べる時は、同じ歩幅で町を歩く時がいい。戦いの場ではなくてな。いつの日か、刀を持たずとも月を眺めながら夜道を散歩できる日が来ることを、俺は願っている」
震えた声で返事をしたゆき乃に、杏寿郎は優しく口付けた。
そんな未来を、望んでも良いのだろうか。
当たり前に隣にいてもいいのだろうか。
「ずっと側に、いさせてください」
願わくば、愛する人の隣で。
〜完〜