温かな息吹 壱
夏の照りつける陽射しと心地よい風に揺れる、真白な洗濯物と黒い隊服。
ここ風柱邸では、不死川実弥の妻であるゆき乃が朝から忙しなく家事をこなしていた。
蝶屋敷でも働いている事もあり、この時代のやり方は少し慣れはしたものの、スイッチ一つで何でも出来ていた時代で生きてきたゆき乃にとっては、まだ要領が掴めずにいた。
早めに夕飯の仕度に取り掛かろうとしていたゆき乃は、外から聞こえた足音に急いで戸を開けた。
実弥が任務から帰還してきたのだ。
おかえりなさい、と思わず駆け寄った。
機嫌が悪いというより疲弊している実弥の顔色は余り良くない。
それもそのはずで、ゆき乃が風柱邸に来てすぐに長期の任務が入ってしまい、それから戻るや否や、別の任務の調査を命ぜられ、トンボ帰り状態だったのだ。
しかも、早く帰りたいが為に、休憩も取らずに帰ってきたのだ。
ゆき乃の顔を見た実弥は、駆け寄った彼女の腰を取りそのまま抱き寄せた。
肩に顔を埋め深く呼吸をすると、「ただいま」と小さく答えた。
「今ね、夕飯の仕度をしようとしてた所なの! お風呂入る? 準備しようか?」
「……」
「それとも寝る? 布団敷いてくるよ」
「……抱かせろォ」
え、と顔を赤くし固まった表情のゆき乃を実弥は埋めていた顔を起こし見つめた。
実弥は限界だったのだ。早くゆき乃に触れたくて仕方がなかったのだ。
決して冗談でもなく、真剣な眼差しを向ける実弥に、ゆき乃の心臓は高鳴っていく。
せめて湯浴みをしてもらいたいとお願いし、ゆき乃は準備に掛かった。
「実弥さん、そろそろ準備が……」
お約束なのか、何なのか。
ゆき乃が部屋に戻ると、実弥が畳の上で丸くなって寝ていた。
実弥の顔を見て相当疲れていたのは分かっていたので、ゆき乃はその姿に安堵し、布団を掛けて夕飯の仕度に取り掛かった。
◇
ドスドスと足音を響かせながら台所へとやってきた実弥は、「よく眠れた?」と聞くゆき乃の顔を見るなり溜め息をついて項垂れた。
もうすでに外は黄昏時。夕飯の時間を少し過ぎた頃だった。
「起こせよォ」
「だって、実弥さん疲れてたでしょ? 気持ち良さそうに寝てたのに、起こせないよ」
チッ、と実弥の舌打ちが聞こえてきた。
ゆき乃はこの舌打ちにも慣れたものだった。怒りや不満がある時にでる舌打ちも、本気で怒っているわけではないのも伝わるし、実弥のクセのようなものだとゆき乃は受け止めていた。
だから、ゆき乃は笑顔で「お腹空いちゃった!ご飯にしよう」と準備を始めると、「そうだなァ」と普通に返事が帰ってくる。
汁物を温めているゆき乃の背後に立った実弥が、徐ろに後ろからゆき乃を抱きしめる。
密着する体にゆき乃の体温が上がったが、それを誤魔化すように「そんなにお腹空いた?」と振り向きもせずに、無駄に鍋をお玉で回した。
「今夜任務はねェ……今日こそお前を抱くぞォ」
「……じゃあ、早くご飯食べてお風呂入らなきゃ! それとも一緒に入る?」
「は?」
「なーんて! 色々と準備あるからまた今度…ンンッ…」
振り返ったゆき乃の顎を掴み、実弥は抑えていた欲をぶつけるように、ゆき乃の唇を塞いだ。
直ぐに割って入ってくる実弥の舌に、ゆき乃の体は身震いし、思わず実弥の服を掴んだ。
上顎を撫ぜ歯列をなぞるように動き、その舌先が口内を刺激する度に、ゆき乃の体は熱くなり、奥がギュッと締まるような感覚になった。
息をしようにも、口を開く度に舌を吸われ、また侵入してくる実弥の舌に、ゆき乃はくぐもった声で実弥を呼んだ。
腰に回された実弥の手が下へと降りていく。
実弥の指が着物の上から触れただけで、「アァ…」とゆき乃から甘い声が漏れた。
「もう限界だァ…煽ったゆき乃が悪い」
そう言ってまた唇を塞いだ実弥は、その手を着物の合わせに這わせると、その隙間に手を入れた。
その瞬間、目を閉じていたゆき乃も、それに触れた実弥も同時に目を開いた。
着物の開けた隙間から見えたのは、この時代にはないゆき乃の下着だった。