温かな息吹 弐
この時代に、ブラジャーはない。勿論パンツもゆき乃の時代のものは存在しない。
着物を着るときは、むしろ上下共に身に着けないものだと、ゆき乃はしのぶに以前教えてもらっていた。
だか、そう簡単に慣れるものではなく、ゆき乃は一人でいる時や、夜はいつも通りに着けて過ごしていた。
義勇の家では、寝るときはTシャツに短パンだったため尚更下着は着けていた。
だから風柱邸に来てからも同じようにしていたのだ。
それを、今の今まで忘れていた。
「何だァこれは…」
「えっとぉ……未来の下着?」
「ふぅん」
実弥はよく見せろと言わんばかりに、着物の帯を手早く緩めて、着物の合わせを軽く開いた。
それから、顎に手を置きゆき乃を一瞥すると、口許を緩めてから「さァて、いただこうかねェ」とゆき乃の体を簡単に抱き上げると、寝室へと連れて行く。
ご飯は? お風呂は? というゆき乃の声など、実弥には届かない。
もう既に限界だった実弥を煽ったのはゆき乃だ。
この時代、一緒に湯浴みをする事など殆どないため、そんな誘いをされて、実弥の保っていた理性が崩壊したのだ。
その自覚があったからこそ、ゆき乃は敷いた布団の上に寝かされても何も言わなかった。
熱を帯びた実弥の瞳に見つめられて、何も、言えなかった。
外から入る月明かりだけが頼りなはずなのに、部屋の中はその瞳に何を写しているのか分かる程に鮮明だった。
余計な明かりや物がないこの時代は、ただ目の前に写る人のことを考えていればいいのだと、教えてくれているようだとゆき乃は思っていた。
現に、ゆき乃は目の前にいる実弥の事しか見えていないし、それだけで満たされていた。
二人の鼓動が、部屋中に響いている。
ゆき乃から視線を逸らすことなく、実弥は着物を解き、前をすべて開けた。
上下共に露わになったゆき乃の体は、肝心な部分が下着で隠されており、実弥にとっては何だか新鮮な状況だった。
見たいと思った素肌は隠れているのに、焦らされている感じが何とも言えない。
今すぐにでも触れて抱きたいのに、まだ恥じらうゆき乃を眺めていたい気さえ起こった。
「実弥、さん?」
「脱がせてェ…どうやんだ?」
興奮気味にそれに手を掛けた実弥に、ゆき乃は胸を鳴らしながらも、ゆっくりと体を起こして実弥に背中を向けた。
まだ痛々しい傷のある背中を、実弥が指でそっと撫でる。
ビクッと肩を揺らしたゆき乃に、「まだ痛むかァ?」と実弥の優しい声が届いた。
「ううん、しのぶさんの薬が効いてるし、自分じゃ塗れないから蝶屋敷で塗ってもらってたし……傷は残っちゃうみたいだけど」
「傷なんかどうって事ねェ。俺しか見ねェんだから」
「うん…」
「これを外すんだなァ」
何も説明していないのに、実弥は器用にホックを外した。
男の本能なんだろうか、と締め付けがなくなり軽くなった胸元を見て、ゆき乃は思わず顔を緩めた。
外したブラジャーを奇妙な顔つきで見た実弥だったが、それよりも、露わになったゆき乃の体に視線を奪われていた。
「…ひゃっ!アァ…」
背中に感じた生温かな感触に、思わずゆき乃の声が漏れ背中が反る。
実弥はゆき乃の傷をなぞるように、優しく背中に唇をつけ舌を這わせていく。
痺れるような感覚に、ゆき乃は声を抑えられなかった。
こんな風に、大事に愛撫された事など一度もなかった。
ただの性欲処理のようにしか扱われず、その行為自体に意味を感じていなかったゆき乃だったが、それが間違っていたのだと、実弥に触れられて初めて知った。
こんなにも胸が高鳴り、抑えられない感情は初めてだった。
好きな人に抱かれる事がこんなに心嬉しい事なのかと。
それと同時に、言いなりになって身を捨てた事を後悔した。
実弥に出会わなければ、この悦びも幸福も知らないままだったのかと思うと、目の奥が熱くなって言葉にできない思いが溢れた。