愛する人 01


その話を聞いて、ハルは戸惑いを隠せなかった。

ハルが慕う先輩の家に、頼まれた物を届けるだけのはずだった。

ダンボールいっぱいの荷物を重たいからと、杏寿郎が手伝ってくれたのは本当に単なる偶然だったのだ。

それなのに、ゆき乃の家にいた男の子、無一郎と対面してから聞かされた話は、ハルを置いてけぼりにさせた。

目の前で話をする杏寿郎は、いつもと変わらない杏寿郎なのに、その声も表情もどこか別の人を見てるような感覚になった。

輪廻転生という言葉は頭に入っても、杏寿郎と無一郎のやり取りや、次いで発せられる言葉に、ハルはまるでおとぎ話でも聞いているようだった。

だからその場では、不安そうにしていたゆき乃の側にいて安心できるようにと手を握っていた。

帰り道に、ハルを気にかけた杏寿郎が「大丈夫か?」と問い掛けても、笑顔で頷くしかできなかったのだ。

本当は聞きたいことがあるのに。

本当は不安に思うところがあるのに。

感情を隠してしまう、ハルの悪い癖だった。







初めて杏寿郎を見た時、その目を合わせることが出来なかった。

人の心を射抜いてしまうような真っ直ぐな大きな瞳。

感情を隠さずに、自信を持って発せられる言葉。

ゆき乃と出会った時に似たような、またそれとは違う感覚になったハルが、杏寿郎を好きになるのに時間はかからなかった。



「ゆき乃の事が大好きなんだな、君は」

「憧れです……ゆき乃さんみたいになりたいって、自分が変わりたいって思わせてくれた人なんです。まだ全然だけど」

「そうか!努力してるのだな。素敵だと思うぞ」

「え?」

「なりたいと思う強い心があれば人は変われる!現にハルは出会った頃より俺に笑顔を見せてくれるようになったしな。それに、ハルの気遣う性分も悪くないと思っている。思い詰めるのはよくないが、俺は相手の気持ちよりも自分を心を優先して口にしてしまうから……ハルのそういう所も含めて、好いてるのだろうな俺は」



照れながらも真っ直ぐな言葉をくれる杏寿郎は、本当に素敵な人だ。

こんな風に、ハル自身を見てくれるような言葉を貰ったのは初めてだった。

杏寿郎といると、自分も彼と同じように真っ直ぐ自分に素直に生きられるような気がした。

彼のように温かな人になりたい。

もっと気持ちを伝えられる人になりたい。

自分のためだけじゃなく、誰かのために変わりたいと思った瞬間だった。

大好きな、彼のために。

それからずっと、彼を見てきた。彼の側で、その温かさや優しさ、大きな心に触れてきた。

こんなに近くで彼を感じていたのに……彼の些細な変化に気がつけなかった自分が、情けなかったのだ。

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