愛する人 03
「杏寿郎さん、ただいま……って、無一郎くん来てたのね!こんばんは」
「よもや!あ、あぁハル…今日は残業だから来れないんじゃなかったか?」
「早く終わったら来ちゃったけど……え、なに?何でそんな慌ててるの?いま、後ろに何隠したの?」
仕事終わりに杏寿郎の部屋に行き、合鍵で入ったはいいものの、挙動不審な杏寿郎にハルは詰め寄った。
杏寿郎が素早い動きで隠したけど、一瞬見えたパッケージ。
そんなハルに、静かにしていた無一郎が淡々と口を開いた。
「煉獄さんに教わってたんだよ」
「え?」
「おい時透!」
「セックスのやり方」
ストレートな言葉にハルの開いた口が塞がらない。
よもや、と額に手をやる杏寿郎の隙を見て、後ろ手に隠したものを奪うと、それを持つ手が震えた。
「セセセ、セックスって!杏寿郎さん!!」
「うむ!」
「僕が頼んだんだよ。あまり知らないから、それだとゆき乃を満足させてあげられないでしょ」
「…へ?ゆき乃さん?」
「うん、好きだから。触れるなら、痛くなんてさせたくないし、気持ちよくさせてあげたいから」
「そそそそそっか……」
真顔でそんな事をいう無一郎に、聞いているハルの顔が真っ赤になる。
その隙にハルの手からそれを取ろうとした杏寿郎だったが、咄嗟に後ろに引いたハルは、杏寿郎を見た。
その顔は、怒っている。
「ゆき乃さんの為なら仕方ないけど!でも、こんなの何で杏寿郎さんが持ってるの!?私に隠れてエロ動画見てたんだ……私じゃ満足できないってこと?!」
「違う!そうじゃない!これはレンタルだ!」
「……」
「……ハ、ハル?」
「見る!あとで私が見る!これは預かります!」
それを手に持ったまま、二人がいた部屋から出た。
スマホを取り出し、ゆき乃のLINEを開いて文字を打つも、深呼吸をしてからそれを消した。
野暮なことはやめよう。
二人なら大丈夫だ。
無一郎とゆき乃の恋路を気にしていたハルは、二人にすぐ訪れるであろう幸せを想像し、思わず顔を緩めた。
幸せになってほしい。
ゆき乃も無一郎も、それから杏寿郎も。
これから先、どんな事があっても、それを乗り越えていけるだろうって信じてる。
みんな、ハルにとって大切な人だから。
無一郎が帰宅した後、台所で夕飯を作っていたハルの元へ杏寿郎がやってきた。
申し訳なさそうに頭を掻きながら、「怒っているのか?」とハルの様子を伺う。
「弁解はしない。気を悪くさせてすまなかった」
「ううん、いいの。男だもんね、エロ動画くらいみるよ……でも数ある中であれを選んだのは杏寿郎さんでしょ?だからあとで見る」
「いや、店員にお勧めを聞いたんだ」
「え……あは、アハハハ!普通聞く?!店員さん困ったでしょ!もう、おっかしい!」
「良かった」
ハルが笑ったことで安心した杏寿郎は、ハルを後ろから抱き締め肩に顔を埋めた。
背中から伝わる鼓動に、胸がギュッと締まる。
首筋に巻き付く腕にそっと触れた。
「ゆき乃さんと無一郎くん、うまくいくといいね」
「時透はああ見えて男だ、ゆき乃のことを幸せにしたいと思っている。誰にも興味を示さなかった男が変わったんだ。心配はいらないだろう」
「そっか……ねぇ杏寿郎さん」
「なんだ?」
「私は杏寿郎さんのこと、幸せにできてるかな?」
ハルの問いかけに、杏寿郎はハルの体の向きを変えると、満面の笑みで答えた。
「当たり前だ!今この瞬間も俺は幸せだ!」
杏寿郎は本当に強い人だ。
優しい人だ。
誰からも愛され、尊敬される人だ。
「……私も幸せだよ。杏寿郎さん」
誰よりも幸せにしたい、愛する人。
これからも二人で、同じ道を歩いて行けたらいいな。
〜完〜