愛を込めて花束を 04


 朝まで愛し合った私が目を覚ましたのは、もう日が完全に登ってからだった。ベッドから彼の卓上に視線を向けるがその姿はなく、真っ赤な薔薇の花束がそこに残されていた。

――無理をするな。休んでおけ。

 リヴァイがベッドサイドに残したメモを見て口許が緩む。
 身なりを整え、その薔薇を花瓶に生けようとするもなかなかの本数で花瓶に収まりそうにない。数えたらなんと108本もの花束だった。
 余っている花瓶がないかと、ハンジさんの部屋を訪ねたらモブリットさんが出てきた。事情を説明する私に、モブリットさんの顔が見る見るうちに変わっていく。そこには驚きと照れが混ざったような複雑な表情をしていた。


「薔薇108本ですか……あの、リヴァイ兵長が……」
「はい。あの、その本数に意味があるんですか?」
「え? コハル知らないのぉ?」


 モブリットさんの背後から沢山の本の山を抱えたハンジさんがひょこっと顔を出した。眼鏡を上にあげているハンジさんは、私を見るなりその顔を破顔させ、ニヤニヤとしながら近づいてくる。
 手に持っていた本をすべてモブリットさんに押し付けると、「その様子だとうまくいったみたいだね 」と言葉を続けた。


「え? どういう事ですか?」
「いやぁね、コハルのバレンタインの話をちょっと話したんだよリヴァイに! 恋人に愛を告白する日でコハルが特別だと思ってる日だってね。まさか薔薇の花束を贈るなんて思ってもみなかったけど!」
「そ、そうなんですか?! ていうかちょっとバレンタインの意味が違ってますけど」
「そうなの? まぁそこはたいした事じゃないよ、あくまでキッカケさ! 現にリヴァイは君に愛の告白した、そうだろう?」
「はい……凄く嬉しかったです」


 なるほど。何故リヴァイが特別な日だと言っていたのか、その理由がやっと分かった。
 ハンジさんが私の耳元で言葉を続けていると、背後から「何してやがる」と最愛の人の声が聞こえた。


「やぁリヴァイ!」
「クソメガネ……コハルを離せ」
「やだなぁ、私にまで嫉妬かい? 困るなぁ」
「お前はどうでもいい事をすぐにコハルに吹き込むからな。コハル、おいコハル……?」


 リヴァイの呼び掛けに答えたいのに、私は振り向くことも返事をする事もできず、ただそこに立つことしか出来ない。
 顔は真っ赤だろう。耳も熱い。昨日泣いたばかりだというのに瞬きすればいとも簡単に涙が溢れてしまう。
 ハンジさんが教えてくれたその意味に、嬉しくて嬉しくて、何も言葉に出来なかった。

――薔薇は贈る本数に意味があるんだよ。108本はね、結婚して欲しい、永遠って意味があるんだ。







「悪くない、俺好みの味だ」
「バレンタインって、女性から男性へチョコを渡して想いを伝える日なんです。詳しくハンジさんに話してなかったから、逆になっちゃったね」
「そんな事はどうでもいい。俺はコハルに想いを伝えるいいキッカケだったと思ってる。そこはあのクソメガネに感謝しとかねぇとな。それにお前からこうして紅茶のプレゼントまで貰ってる」
「私のプレゼントなんか大した事ないよ。リヴァイがくれたものと比べたら」
「コハル、こっちに来い」


 呼ばれてリヴァイが座るソファの隣に腰を掛ける。途端に抱き寄せられ、微かに紅茶の味がするキスが落とされた。


「比べる必要なんてない。それにもうあの日に貰ってる。俺にとっちゃ最高のもんをな」
「え?」
「俺にはコハルさえいればそれでいい。なんなら今からまたくれてもいいんだがな」
「勤務中じゃ……」
「会議までまだ時間はある」


 脇の下に腕を入れられ簡単に彼の膝の上に乗せられた私に、「可愛い妻の顔を見せてくれ」という殺し文句を言うからもう何も言えなくなった。
 まだ予定だしすぐではない。だけどそう遠くない未来に、永遠を誓い合うだろう。
 私の心は、永遠にあなただけ。



end

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