愛を込めて花束を 03
今日まで隠しておいたプレゼントを持ってリヴァイの部屋、彼の机に座って帰りを待った。もう日没から時間が経ってしまっている。プレゼントを渡すドキドキをずっと抱えたまま働いていた所為で、いつの間にか彼の机に突っ伏して重たい瞼を閉ざしていた。
目が覚めたのは、ガチャっという扉が開く音がしたから。微睡みの中、起きようと目を瞬かせているとフワリと鼻を掠めたのは強い花の香りだった。
「そんな所で寝たら風邪引くだろうが。それともそんなに看病されてぇのか俺に」
「ん、リヴァイ……?」
「何とか間に合ったな。……コハル」
上体を起こし今の状況を理解しようと頭をフル回転させる。だけど、私の脳がまだ寝惚けているせいで何が起こっているのか理解できない。
リヴァイの椅子に座っていた私。その傍らに立った彼が、私の名を呼んでその膝を折り跪いた。まるで童話に出てくる王子様のようなその格好に、何が起こっているのか分からないながらも心臓が早鐘を打ち始めていく。
「え、何……リヴァ、」
「コハル、俺はお前と出会ってから自分でも知らねぇ俺を知った。今でも正直こんな真似をするなんて信じられねぇとは思ってる。でも……コハルにはちゃんと伝えたい」
リヴァイが後ろ手に持っていたものが何かは分かっていた。でもそれを目の前に差し出された時、私に向けて差し出されたのだと認識した時、込み上げる熱いものが瞳から溢れて流れ落ちた。
目の前に広がる赤い薔薇。その束になった薔薇が何本あるかなんて直ぐに数えられないくらい、両手いっぱいの赤が視界いっぱいに広がった。
膝まづいて花束を差し出される日が来るなんて、信じられない。しかもあのリヴァイが。
「コハル……愛してる。俺の気持ちだ、受け取って欲しい」
「リヴァイっ……」
「泣くほど嬉しいって事か? 俺はお前には笑ってて欲しいんだがな」
顔を手で覆って涙を流す私に、リヴァイの困惑した声が届く。パサっと花束を机に置く音。その後当たり前に私を抱き寄せた彼の温もりに、更に目頭が熱くなる。
私を強く抱きしめた身体が少し離れると、私と視線を合わせるようにしゃがんだ彼によって、顔を覆っていた手が剥がされた。
滲んだ先に見えた彼の顔は、いつになく優しい。
伸びてきた手が、熱く頬を流れる雫を丁寧に拭ってくれる。それが更に私を熱くさせること、知っているのだろうかこの人は。
「好きよ、リヴァイ。好き、大好き、愛してる!」
「はっ、フルコースだな」
「薔薇の花束なんて、今まで貰ったことないよ。凄く素敵……ありがとう」
「意味、分かっているのか?」
「え、意味?」
「いや、いい……それより、今日は特別な日なんだろ? コハルを存分に愛したい」
熱を帯びた双眼が私の身体を射抜く。近づく端正な顔に私の心臓は爆発寸前だ。彼の真っ直ぐな言葉も、素敵な花束も、甘い唇も吐息も。全てが私を支配していく感じがした。
「愛してる」
「今日はたくさん言ってくれるんだね」
「特別だ、今日は」
私を抱きかかえてシワひとつないベッドに静かに横たえる。二人分の重さで軋む音が遠く聞こえるくらい、脈を打つ鼓動が体中で鳴り響いているようだった。
「リヴァイ……あのね。私この世界に来て心細いし帰りたいと思ってたけど、今はあの時の気持ちはもうないよ。どんな場所でもリヴァイが居なきゃ意味が無い。もう私の心にはリヴァイでいっぱいなの……だから、リヴァイのそばにずっといさせて」
私に跨ったまま両腕を顔を横についていた彼は、少し体勢を変えて片手で優しく私の髪を撫でる。それから、その手が降りてきて頬や耳を滑っていく。
可愛いこと言ってんじゃねぇ、という声が唇が触れるのと同時に私の耳に届いた。食むように何度も触れては離れを繰り返した口付けが、徐々に深く甘美な世界へと誘っていく。
クラバットを外し着衣を脱ぎ捨てたリヴァイの体は、年齢の割にかなり出来上がっている。こうして何度か身体を重ね合わせているけど、鍛え上げられたその体は何度見ても感嘆する。そして、そんな彼に見つめられると、子宮の奥がギュッと締め付けられた。
「この先死んでも俺はコハルを離すつもりはねぇ。覚悟しておくんだな」
「うん、離さないで。私も離さない」
「言うじゃねぇか。そういう所、堪らなく好きだ」
紡がれた言葉を噛み締める間もなく、キスを落とされ脳が痺れていく。
触れ合う肌の温もりと、混ざり合う吐息、官能的な水音。そのすべてが身体を熱くさせ、私の口から嬌声を吐き出させる。
リヴァイが私に触れる度に潤う蜜はとめどなく溢れてしまう。
「リヴァ、ぁあっ……気持ちぃ……」
彼との時間はとても甘くて熱く、ひとつになった場所からドロドロに溶けてしまいそうだった。