温もりに包まれて*

 求められてしまったら拒む理由がない。熱を宿した瞳で見つめられ顔を寄せられてしまえば、あとはその熱い唇を受け入れるだけだった。
 エレベーターに乗り込んだ後、背の高い実弥くんが私を壁に追い込んだ。ほぼ真上から見つめられ、切なく名前を呼ばれれば私の胸はキュンと音を立てる。


「実弥くん……?」
「成瀬…」
「さね、」


 言葉が途切れる。実弥くんが私の唇を塞いだ所為で。目を閉じて私に口付けるその顔を、瞼を閉じることなく眺めてしまう。キリッとつり上がっている目をしているけど睫毛は長いから、こうして閉じていると幼くみえるんだ、と初めて知る新しい実弥くんの表情に子宮が甘く疼く。
 重なるだけの唇が少し離れ、息が触れ合う程の距離で視線が交わる。羞恥はあったものの不思議と冷静にこの状況を受け入れている私は、やはりどこかで期待をしていたのだろう。実弥くんにキスをされることも、その先の事も。


「……今日、うちに来ねェか?」


 私に聞くのは実弥くんの優しさなんだろうか。強引に抱きしめてキスしてきたのに、その先は私に委ねるなんて、ずるい人。きっと私が断らない事を分かっていたのだろう。私の気持ちも、実弥くんにはお見通しなのかもしれない。
 拒むことを許さない程に強く手を握られ絡まる指。実弥くんの熱を帯びた瞳が私に向けられている。今はその事実だけでもいいとさえ思ってしまう。
 静かに頷いた私の手を引き、鍵を開け真っ直ぐ実弥くんの部屋へと入っていく。扉が音を立てて閉まった瞬間に、雄々しい実弥くんの熱い唇が私のそれに押し付けられた。





 カーテンの隙間から見える瑠璃色の空に、まだ夜明け前なのだと認識する。ぼんやりとそれを眺めながらも覚めていく意識。気怠い身体を起こそうとした私は、すぐにその腕を引かれて再び身体を横たえた。


「行くんじゃねェ」
「実弥くん……」


 その逞しい腕に抱きしめられる。お互いに素肌のままだからすぐにその体温が伝わり、数時間前までの艶めかしい時間が思い起こされる。急速に襲ってくる羞恥に身体が熱くなっていく。逃がさないようになのか、実弥くんが脚を絡めてくるから余計に。


「実弥くん、あの……」
「なんだァ?」


 顔を上げて彼の顔を見るも、まだ少しだけ眠たそうな顔をしている。寝起きはこんな顔なのか、とそれを見られる事への幸せな気持ちに自然と顔が緩んだ。
 脳裏に浮かんでいるいくつかの言葉を片隅に追いやって、私は実弥くんの唇に自分から口付けをする。まるで小鳥がキスをするようなそれに実弥くんは目を見開くも、すぐに口許を緩めた。


「随分とかわいい目覚めのキスじゃねェか」
「うん、おはよう……」
「起きた時に成瀬がいるのが信じられねェ」
「私もだよ。なんか夢見てるみたい」
「夢じゃねェぞ」


 横向きに抱きしめられていた身体が動き、背中に私達の温もりが残るシーツが触れる。身体に乗る微かな重みと塞がれる唇の熱に、私の身体はあっという間に絆されていく。
 キスされてる時も抱かれている時も、夢なら醒めないで欲しいと願った。でも実弥くんは夢じゃないと言ってくれる。唇から伝わる熱が夢でないのだと教えてくれる。
 私はその温もりを信じたいと思った。こんなにも優しく丁寧に私に触れてくれるのだから。


「実弥く……っぁ、」
「夢じゃねぇって教えてやるよォ」
「んっ……ぁ、だめ…」


 口ではそう言うものの、疼いた私の秘部はすでに潤っていた。昨夜の交わりの余韻がまだ残っている。今までこんな風に抱かれた事がなかったから、まるで私が卑猥な女にでもなってしまったみたい。だって、実弥くんにやめて欲しくないって思ってる。もっと触って欲しいと身体が疼いている。


「もう硬くなってるぞォ……ダメじゃねェだろ」
「あぁ……っ、ん…ぁ……んんっ…」
「成瀬……声、抑えんじゃねぇ」


 口許を隠していた腕を上にあげられ、指で乳首を擦りながら首筋から脇へと舌で舐めあげられる。ゾクゾクとする快感に自分のものとは思えない声が上がった。
 そんな私を見て口を綻ばせた実弥くんは、舌で散々私を翻弄したあと、潤う秘部に骨張った指を入れ内壁を擦り上げていく。それと同時に口に含んだ乳首を舌先で突いたり、舌全体でねっとり舐められる。
 昨夜ですでに知られてしまったのであろう。迷うことなく私が感じる所を指と舌で弄られ、あっという間に快感へと誘われていく。


「あっ、ひゃ…ぁ、実弥くんっ、だめぇっ…」
「気持ちいいかァ?」
「ん、いいっ……きもち、い……あっ、もうだめ、いくっ、イッちゃうっ……っぁあ!」


 実弥くんの指を離すまいと痙攣をするそこから抜かれた彼の指には私の愛蜜が絡みついていて、実弥くんはそれを厭らしく舐めとり扇情的な瞳で私を見つめた。
 こんな実弥くんが見れるなんて信じられない。ベランダで会話をしていただけの関係が遠い昔に思えた。仕切りの奥でどんな表情をしてるんだろうと想像するだけだったのに、こんな風に欲情的に私を見つめる表情が見られるなんて。
 手早く挿入の準備をした彼が私に覆いかぶさり深いキスを落とす。熱く硬くなったそれが秘部の入口に当たり、それだけで私の秘部からは更なる蜜が溢れる。唾液ごと絡めとられた舌をじゅるりと吸われ、鼻からくぐもった声が漏れるだけだった。


「成瀬の、トロトロ過ぎて入らねェ」
「そんな、こと……言わないで、恥ずかしいっ…」
「ばぁか。恥ずかしがるのが見てェからわざと言ってんじゃねェか……挿れるぞ」
「実弥くん……好きっ…好きだよ……」


 私の言葉に眉毛を下げて微笑むと、ゆっくりと奥へと腰を沈めてくる。私の腟内を最奥までいっぱいにすると、甘い吐息を吐いた実弥くんは私の唇を雄々しく塞いだ。
 肌が合わさる音と粘膜が絡み合う音が響くこの部屋に、二人の甘い吐息と私の嬌声が混ざり合う。独特の香りに酔いしれるように、私は実弥くんから断続的に与えられる刺激に、目を閉じて声が枯れるまで啼いていた。


 人は幸せを手に入れると、それを失うことが怖くなるものだ。ずっと願っていた幸せなら尚更。
 握り締めたその手にある幸せを離さないように、私は目の前にある不都合から目を背けていたのかもしれない。


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