恋の予感


――――それは半年前のこと。

先輩から教えてもらったこのBarのカウンターで、一人でマスターと会話をしながら飲んでいたのがゆき乃ちゃんだった。



「もうね、その瞬間サーって引いたの。何この小さい男って。いい人かな?って思って食事に行っただけなんだけど、もう未来なんてないって思った。そもそも、すぐに呼び捨てにする男って嫌い!あ、マスターならいいよ?イケメンだし。もうさ…あの無駄な時間、仕事してる方がマシだっての!百歩譲って割り勘はいいとして、一円単位までってどーなの!?経理かっての!」

「ブッ!あ……すみません」



思わず笑ってしまって、慌てて手で口を抑えるも遅し。

カウンターの端で飲んでいた俺をギョッと見た彼女は、口をポカンと開けて、



「聞いてた、の?」

「あ、はい。ていうか…丸聞こえで」

「え、聞いて聞いて!それでね!」



席を立って俺の隣にグラスを持ってきて座る。

ヤバいのに捕まった、そう思った。

芸能人たるもの〜云々が頭の中をよぎったけど、きっとこの人は俺のことなんて知りもしなくて、だからこそ、普段聞けないような話に耳を傾けていた。

見ず知らずの人の恋愛話なのに、笑いながら話すから、俺も笑いながら聞いていた。





「ゆき乃ちゃん相当酔ってるから、ずっとノンアルに変えてたんだけど…ショックだったんじゃない?本当は」



段々とトーンダウンしてきた彼女がトイレに立った時、マスターがこっそり教えてくれた。

そんな風に見えなかったけど…そうだったんだ。

女心は難しいな。



そんな出会いがあって、最初は名前だけしか知らない人だったけど、何度かここで話すうちに気を許すようになっていった。

この仕事をしてると簡単に連絡先なんて交換しない。

でも、もっと知りたいって思った。

人が喋ってるのを見てるだけで面白いって思うのは、初めてだったから。

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