パソコンから目を離し、椅子の背もたれに体重を預けて「んー」と思いっきり伸びをした。
ほんの数秒、凝り固まった身体と目を休ませる。
こういうの定期的にやらないと仕事のペースも自然と落ちていって。
加えて、只今の時刻は午後3時。
完全に集中力が…――――
「ゆき乃ちゃ〜ん!」
「わあっ」
意識をまったく別の場所に置いていた私に、突然声が届いて椅子からずり落ちそうになった。
誰かって脳が認識する前に、すでに心臓がバクバクいって飛び出そう。
別に身体を突き破って心臓は飛び出て来ないのに…――無意識に左胸をギュッと押さえた。
「れ、黎弥くん!驚かさないでくださいよ」
姿勢を整えた私は、その声のした方を向く前に名前を言い当てた。
黎弥くんの喋り方も声も特徴あるからすぐに分かる。
きっと、廊下の向こうにいたとしても声を聞けばすぐに分かる。
だから分かったのに――
「声だけで分かるなんて、オレってやっぱり愛されてるの?」
――意味不明な事を言うんだ、この人は。
しかも勝手に隣のデスクから椅子を拝借して、背もたれを前に向けて座りながらコロコロと私に近づいてくる。
わっ、わっ…やめて!
「何でいるんすか!ここスタッフオンリーですけどっ!」
近づく黎弥くんを避けるように身体を仰け反ると、その分黎弥くんが距離を詰める。
簡単に私のパーソナルスペースに入ってくる黎弥くん。
バクバクと、心臓が強く大きく動いてる。
「ハルちゃんにパス借りちゃった!」
人差し指と中指に挟んでヒラヒラとさせるそれは、事務所スタッフ専用のICカードで。
それがないとこの部屋に入れないのを知ってる黎弥くんは、わざわざ後輩のハルにそれを借りたみたいだった。
何してんのよハル!
仕事サボってんじゃないわよ!
そう思うのと同時に、そうまでしてここに来た黎弥くんに顔が熱くなりそうだった。
「ハ、ハル戻してよ…今日締切のデザインあるのに」
「いま夏輝くんに連行されてるから無理。食事連れ出してる…どうせ残業だろうからって」
「……」
「ゆき乃ちゃんもオレと休憩しない?」
小首を傾ける黎弥くんは、それを可愛いと思ってやってる。
だからそんなのスルーすればいいんだけど。
可愛いなんて思っちゃったら、それこそ黎弥くんの思うツボなんだけど。
「……じゃあ外でコーヒー買ってきます」
――――好きだから、まんまとハマってる私。