そばにいたくて


「まぁまぁ、そう慌てんなって」


椅子から立ち上がろうとした私の両肩に断りもなく手を置いた黎弥くん。

触れられた肩がジンと熱くなる。

それを知ってか知らずか…――知られては困るけど、黎弥くんは私の目線に合わせて顔を下げるとふわりと微笑んだ。


「オレがゆき乃ちゃんに買いに行かせるとでも思ってんの?」

「いやでも…」

「はい、LEIYA特製ブレンドゆき乃ちゃん専用ミルクティー」


長ったらしい名前を言って、紙袋から出したカップを私の前にコトッと置いた。

…最初からそのつもりで?

用意周到な黎弥くんに感心するも、それ以上に気になった事。


「私専用って…?」


温かいカップに手を添えながら聞いたら、黎弥くんは少し顎を上げて得意気な表情を私に向けた。


「オレ知ってんの、ゆき乃ちゃんの好きな紅茶…イングリッシュなんとかのやつ」

「なんとかって…」


テキトーなのにドヤ顔してる黎弥くんに思わずクスッと笑ってしまう。

そんな私に「合ってるっしょ?」と言葉を続ける黎弥くん。


「そのイングリッシュにオレの愛情が入ってるから、それはオレにしか作れないゆき乃ちゃん専用ブレンドっつー事!」


ニコッと笑う黎弥くんだけど、その瞳は真剣そのもので。

思わず視線を逸らしてしまった私は、「あ、ありがとうございます」と誤魔化すようにカップを口に運んだ。


「アッ…ツ!」

「うお!大丈夫か!?」


慌てた所為で勢いよく唇に当たった黎弥くんブレンドのティー。

私の声に心配した黎弥くんが近づいて、


「…ヤケドしてねぇ?」


そう言って私の唇を親指でスッと撫でた。

途端に全身が熱くなって、唇もジンジン熱をもって…


「やめて…ください」


こんな風に近づかれると、私の心臓が狂いそうになる。

息が出来なくなりそうな程苦しくなる。

だから近づかないで欲しいのに――――。


「何で逃げるかなぁ…」

「……」

「ゆき乃ちゃん、オレの事キライ?」

「…ううん」

「じゃあ好き?」

「……」

「オレ、ゆき乃ちゃんの事――」

「い、言わないで!」


聞きたいけど、聞いたら終わるって思った。

だから、声を上げて黎弥くんが言おうとしていた言葉を遮った。

左胸が苦しくて、鼻の奥がツンとして…。

でも泣いて黎弥くんを困らせたくないから、唇を噛んで黎弥くんを見ないように椅子の脚をジッと見つめるのが精一杯だった。

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