草食バレンタイン


鼻を赤くして白い息を吐きながら私の名前を呼んだのは、慧人だった。

もしかして、私を待ってた?

偶然…なのかな。


「ゆき乃さん、お疲れ様です」


そう言いながら私に駆け寄る慧人。

やっぱり私を待ってたんだと思ったけど、慧人がどうして外にいたのか分からなかった。

約束も何もしてないのに。

それ以前に、あの子と一緒なのかと思ってたのに。


「な、何してるの?こんなところで」

「待ってましたゆき乃さんの事」

「だから…なんで?会社でも、」

「会社の先輩としてではなく、ゆき乃さんと話したかったんです。ゆき乃さんに、俺を一人の男として見てもらいたかった」

「…え?」

「ゆき乃さん、受け取ってください」


カサッと何かが擦れる音がした。

それと同時に、視界に華やかな色が入ってきて、甘い香りに包まれる。

慧人の手に持たれていたのは小さなブーケのような花束。

そこには――――“Valentine for you”というメッセージカード。


「バレンタイン?」

「はい、俺からゆき乃さんに…花束とチョコです」

「え?」

「ゆき乃さんにチョコ欲しいって言ったけど、バレンタインをゆき乃さんと過ごしたいから、その前にやっぱり俺から伝えたくて…――――好きです、ゆき乃さんの事」


ハッキリと届いた慧人の気持ち。

花束に告白なんて、今までの草食慧人からは想像ができないくらい。

慧人に対する不安も何もかも吹っ飛ぶくらい、嬉しい。

私も、ちゃんと言葉にしなくちゃいけない。

ここで意地を出したらもう、私はこの人を失ってしまうと思うから。


「慧人、私…」

「はい」


でも一つ、想いを伝える前に聞いておきたい。


「いいの?私で。もっともっと若くて可愛い子がいる――キャッ!」


グシャッと聞こえた音と、背中に回された手。

気づいたら、慧人に抱きしめられていた。

吃驚しすぎて言葉に詰まる。


「そんな事言わないでくださいよ…俺はゆき乃さんしか見てません。好きだと思うのも、ゆき乃さんだけです」

「…聞いたの、受付の子の会話を。慧人とデートするって」

「え?」

「LINE交換したって」


私の言葉に少しだけ手が緩んだ。

でも、それを不安には思ってなくて…慧人の目を見たときから、私は慧人の想いを信じたいって気持ちが強かった。

色々と矛盾してるけど、こんなに気持ちが動くのは、相手が慧人だからだって。


「同期の奴に、勝手にID教えられたんです。でも連絡取ってないし、ちゃんと断りました…俺はゆき乃さんだけだから」

「…良かった」

「信じてくれる?」

「慧人が私に嘘なんてつかないって思ってる…信じたいって、さっきの告白を聞いて思ったの」

「ゆき乃さん」

「チョコ、あげる」


顔をあげて慧人を見つめる。

綺麗な顔がそこにあって、いつものように顔は赤かったけど、でも何故か凄く男らしく目に映った。


「私も慧人が好きよ」

「う、やった…すっげぇ嬉しいっす!」


パァッと晴れた表情を見せて、私を更にギュッと抱きしめる慧人。

またグシャッと嫌な音がした。


「慧人慧人!花が潰れてる!」

「うわ、やっちゃった…でも離したくないです!」

「え?」

「ゆき乃さん大好きっ!」


私を持ち上げる勢いで抱き上げる。

恥ずかしいのに、嬉しいと…離してほしくないと思う。

思い描いていた包容力とは違うけど、でも――――この恋が、きっと一番幸せになれる気がする。


「大好きよ、慧人」


チョコだけじゃなく心も全部、あなたのものだよ。



☆Happy Valentine☆


End

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