静かな教室に響くチョークを走らせる音。
カーテンが揺れて、暖かな午後の日差しが隙間から差し込んでくる。
「ここ試験出すぞ〜!寝てる奴知らないからな」
普段くぐもっている声が少し大きくなった。
寝てる奴なんて、クラスの半分以上が当てはまる。
それを気にすることなく淡々と授業を進める先生は、教卓に教科書を置いてこちら側を向くと…――――掛けてる眼鏡を指の背でグイっと上げた。
切れ長の目が、更に細くなった気がする。
身長が高くガタイもいい先生の声は、その体格から想像もつかない程優しい。
だから、眠たくなる。
しかも国語…音読する声が子守唄のように眠気を誘う。
そのせいか、先生の授業ではクラスのほとんどが寝ている。
進学クラスとは違う普通科のこのクラスでは当たり前の光景。
あたしも、本当なら眠い。
お弁当食べた後だし、本当なら寝てる。
でも――――
「はい、先生」
「どうした?保科」
「質問いいですか〜?」
あたしの言葉に、ピクっと眉毛が上がった。
それから時計を見て、「時間がないから、放課後に職員室に来なさい」と言った瞬間に終了のチャイムが鳴った。
先生の目は何か言いたそうだけど、それは無視。
ニコッと先生に笑顔を向けると、今度は困ったような顔をした。
いいの。
先生がいくら困っても、止めないんだから。
最後に課題を言い渡した先生はもう一度あたしを一瞥すると、次の授業のために教室を出て行った。
廊下を歩く先生が見えなくなるまで目で追いかける。
先生の歩幅と、あたしのドキドキしてる心臓の鼓動が速さが同じで…――――たったそれだけで、嬉しくなった。
あたしの、届かない先生への想い。