勝利の女神


目を開けると、白い天井が見えた。

身体を起こそうとすると、「慧人くん!」とそばにゆき乃がいた事に気づく。

その顔が笑顔じゃなく泣いてる事にも。


「ゆき乃?」


上体を起こすと、一瞬目がチカッとしたけどすぐに焦点も合った。

そこが保健室だというのもすぐに分かった。


「良かった、慧人くん」

「え…」


ゆき乃が椅子から立ち上がって俺に抱きついてきた。

一瞬何が起こったか分からなくて、もしかしてこれ夢?って思った。

きっとずっと握ってくれていた手。

ゆき乃がどれだけ強く握ってくれていたのか…ゆき乃の手が離れてもなお感覚が残っている。


「無茶しないでよ、バカ!」

「え、俺…どうなった?」

「そのまま動かなくて、どうしようかと思った…脳しんとうだって……変なところ打たなくて良かったよ」

「ゆき乃は?」

「え?」

「ゆき乃は怪我してない?」


俺から身体を離すゆき乃と至近距離で目が合った。

目縁が赤くなって頬に涙の筋が残ってる。

あぁ俺、ゆき乃泣かしちゃった。

ゆき乃には笑ってて欲しいのに。

そう思ったら、手が勝手に動いて…ゆき乃の頬にある涙の筋を指で拭っていた。

でもすぐに、また目尻から涙が流れ落ちてくる。


「どっか痛いの?」

「バカ違う…自分の心配してよっ!私じゃなくて……怪我でもしたらどーすんのっ!」

「俺そんなヤワじゃないって…それに、ゆき乃に怪我なんてさせたくない」

「慧人くん…」

「つーか、気づいたら勝手に身体が動いてた」


ニッと笑うとゆき乃はそれでも俺を心配そうに見つめる。

ベッドの脇に立ったままのゆき乃の手を握り締めて、もう一度その顔に触れた。


「笑って?ゆき乃…もう心配かけないから」

「……」

「ゆき乃は俺の女神なの!ゆき乃の笑顔と声、いつも俺のパワーになってる…ゆき乃がそばで応援してくれたら、それだけで無敵なの俺!ゆき乃は勝利の女神なんだから」

「慧人くん、」

「好きなオン、ナ…守るのは、当然だろ?」


言って、顔がカァーと熱くなる。

大事なところで噛んじゃったじゃん!

ちょっとカッコつけようと思っただけなのに!

俺をキョトンと見つめていたゆき乃が「プッ、噛んでる」と吹き出した。

だけどその顔は…笑ってる。


「慧人くん、それ告白?」

「え、あうん…え!これじゃダメ?」

「うん」


そうなのっ?

今ので伝わらないの?

焦る俺に、今度はゆき乃が俺の手を握る。


「慧人くんの言葉で、聞きたいな…」


ゆき乃の言葉にゴクンと唾を飲み込んだ。

それからゆき乃の目を真っ直ぐ見つめて…――――「ゆき乃が、好き」心にあった想いをそのまま伝えた。

俺の手をギュッと更に強く握るゆき乃。

その顔は笑顔というよりも、照れて微笑んでるような、初めて見るゆき乃の顔だった。


「私のこと、ずっと守ってくれる?」

「当たり前だろ」

「私も…――――慧人くんの事、好き」


ゆき乃の言葉に心の中では「ヨッシャ〜!」と万歳してるのに、実際はただゆき乃を見つめるだけしかできなくて、ゆき乃の言葉を噛み締めてる。

俺、ゆき乃と両想いじゃん。


「俺と付き合ってくれる?」

「うん、でも…」

「え、でも?」

「もう無茶はしないでって約束して?私も…私のために怪我する慧人くん見てられないから」


うん、分かった――と言ったと同時にゆき乃を片手で抱き寄せた。

でもまた同じ事があったら俺、ゆき乃を守るから。

きっと、身体が勝手に動くと思うから。

それでも怪我しないように…ちゃんと自分を強くするから。


「大好き」


ゆき乃の顔に寄せると、ゆき乃の長い睫毛が揺れてそっと伏せた。

ずっと見ていた綺麗な唇に、そっと唇を重ねた。


初めてのキスは、レモン味じゃないって…キミが教えてくれたんだ――――。



End

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