騒がしい構内の食堂。
午後からの講義のためにお腹を満たそうと立ち寄ると、
「ゆき乃っ!こっちこっち!」
窓際の席から声が私を呼ぶ声が聞こえた。
立ち上がって、満面の笑みを向けて大きく手を振る彼――――八木勇征。
周りの目なんて気にせずにブンブンと手を振ってる。
そんな私も、呼ばれた瞬間から彼だけしか視界に入ってなくて、何も買わずに勇征の元に駆け寄った。
「おはよう!ゆせくん!」
「ゆき乃おはよう!つっても昼だけどな」
「ゆせくんは一限から?」
喋りながら座るのは勇征の隣。
いつの間にかその位置が、私の場所になっていた。
「いや、寝坊した!だからゆき乃と同じ講義から」
笑いながら自分の目の前にあったオムライスの乗ったトレーを私の前に置く勇征。
そこには私の大好きなミルクティーもある。
「はい、食ってね!」
いつものように、勇征は当たり前に私の分を差し出す。
午後の講義が同じ日はこうして買って待ってくれてる事が多くて…それを当たり前だとは思ってないけど、勇征が前に「俺がしたいからしてんの〜」と言ってくれたから素直に甘えてる。
ありがとう――と笑顔を向けると、勇征が頬杖をついて嬉しそうに私を見つめ返した。
優しい笑顔にトクトクと心臓が音を立てる。
これがいつからか分からないけど、勇征の隣にいると私の心臓は音色を変えるんだ。
「ゆせくんのは?いいの?」
「実は家でちょっと食って来ちゃったんだよね、究極に腹減り過ぎて」
「あは!そうなんだぁ」
「でもやっぱ、一口ちょうだい?」
あーん、と大きな口を開けて待ってる勇征に、スプーンに一口分を乗せて差し出した。
パクリと豪快に食べる勇征はスプーンごと食べちゃう勢いで。
むしろ私の手も食べちゃうんじゃないかってくらい。
目を閉じる勇征と顔にドキッとしたのは内緒。
「俺、昨日オムライス食ったのに味違う!ゆき乃のは特別だな」
「え〜同じだよきっと」
「この味は俺にしか分かんないなぁきっと!」
「じゃあもう一口あげる!」
大学の食堂でこんな事してる人なんていない。
いたとしても、その二人は間違いなく恋人同士で、周りが見えないくらいラブラブなんだと思う。
でも――――私たちは、恋人じゃない。
恋人のようで恋人じゃない。
どんな関係かと聞かれたら、当てはまる言葉は“友達以上恋人未満”だと思う。
敢えて言うなら、だけど。
いつから友達以上になったのかは分からないけど恋人じゃないのは確か。
周りからは付き合ってるんだと勘違いされちゃう事もたまにある。
だけど、私と勇征を繋ぐ言葉は友達以上恋人未満という曖昧なもの。
気づいたらそうなってた。
そして、気づいたら…――――私の心にいつも勇征がいた。