「すみません。男子テニス部の練習場所はどちらでしょうか。」
放課後、部活に向かう途中で切原は通りすがりの女子生徒に道を聞かれた。
さらさらで癖のない黒髪に映える白い肌。
ぱっちりと大きく印象的な瞳が切原に微笑んだ。
(やべ、可愛い〜。)
好みの女子から話しかけられて、思わず顔がにやける。
切原は自分の進行方向を指さした。
「あっち。俺も行くとこだし、送ってくぜ。」
「そうですか。ご親切にありがとうございます。」
彼女は綺麗に笑って、切原と並んで歩き出した。
それなりに交友関係の広い切原だったが、見かけたことのない女子だった。
(こんな可愛い子いたら、顔くらい知ってそうなもんだけどなあ。)
姿勢が良く、所作も上品な彼女は見るからに育ちが良さそうだ。
「わざわざ男子部なんかに何の用?アンタ、テニスすんの。」
立海のテニス部に女子部はあるが、男子部にマネージャー制度はないから女子部員はいない。
「いいえ。」
「そーなの。んじゃ、何で?」
「色々ありまして。」
彼女は微笑んだだけで、切原の質問にはっきりとは答えなかった。
(教える気はないってことね。)
笑顔は綺麗だが、心を開いてくれるつもりはないらしい。
歩いているうちに、テニスコートに到着していた。
部員はもうほとんど集まっていて、各々でウォーミングアップを始めている。
「ありがとうございました。
副部長さんはいらっしゃるかしら。」
「えーっと…。ああ、あれあれ。
あの黒い帽子被ってんのがそうだぜ。」
でもめちゃくちゃ怖いから気をつけろよ、と切原が言う前に彼女は副部長である真田のもとへ歩き出していた。
「あら、行っちまったの…。勇気あるねぇ。」
仮に真田のことを知らなかったとしても、中学生としては規格外の迫力を持つ真田に話しかけるのはハードルが高いと思う。
けれど彼女は怖気付くことなく真田に近づいていき、何かを話していた。
(…てか、普通部長のとこに行くもんだよな?
なんで副部長?)
切原はしばらく様子を見ていたが、彼らは切原から見えない場所へ行ってしまった。
「…っと、俺も着替えて来ねえと。」
2人の様子は気になったが、部活が始まるまで時間があまりない。
切原は部室へ急いだ。