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真田は訪ねて来た少女を連れて、部室の影に移動した。

周囲の視線が無くなった瞬間、すましていた彼女の表情がぱっと華やいだ。

「兄様、会いたかった!」

そう言って真田に飛びついた彼女…新宮香織を抱きとめながら、真田は困惑した様子で言った。

「香織、お前がどうしてここに?

まさかとは思うが、その制服を着ているのは…。」

「そう、転校して来たの。

兄様と同じ学校に通いたくて、前から交渉してたのよ。」

香織は真田の父方の従姉妹だった。

幼い頃からよく面倒を見ていたためか、彼女は真田にかなり懐いていたし、真田も彼女のことを実の妹のように思っていた。

突然転校してきたことには驚いたが、元気そうに見えることに安堵した。

頭にぽんと手を乗せると、香織は一層嬉しそうにあどけなく笑った。

「まあ、お前のことだ。

きちんと筋は通して来ているのだろう。」

「もちろんよ。出された条件は完璧にクリアしたわ。」

香織の両親が提示した条件は"中学1年間の成績をオール5で維持すること"。

香織は見事にそれを突破し、晴れて真田と同じ学校に通う事を許されたのだと話した。

他にもたくさんやることがあるだろうに、彼女の努力家なところは変わっていないようだ。

「最も、この学校の方が前よりもレベルが高いから、結果的には母も満足でしょうけど。

…それより、どうしてここに精市がいるのかしら。」

香織がじと、とした視線を向けたのは、いつのまにか真田の隣に居る幸村精市だった。

彼は香織の冷たい視線を少しも意に介さず、にこにこの笑顔のまま答える。

「久しぶりの再会なのに酷いなあ。

香織の姿が見えたから飛んできたんだよ。」

「私は兄様に会いに来ただけよ。

分かってはいたけど、貴方と同じ学校だと思うと憂鬱だわ。」

香織と幸村は昔からあまり相性が良くないので、こんなやりとりは日常茶飯事だ。

2人の間に挟まれ、真田はため息をついた。

唸っている香織とは対照的に、幸村は機嫌が良さそうに見える。

「香織がいると楽しくなりそうだから、俺は嬉しいけどね。

ところで、あそこで覗いてる彼には本性を見せて良かったのかい?」

「えっ?」

真田が幸村の指さした方を見ると、ぽかんとした顔で部室の影に立っている赤也がいた。

香織がしまったと苦い顔をする。

彼女は以前、自身の目的のために人前であまり素を見せないのだと話していた。

転校初日から赤也にこんな姿を見られたのは計算外だったのだろう。

香織はくすくすと笑っている幸村をしっかり睨んでから、諦めたようにため息をついた。




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