「ここは俺たちが使うんだから、お前どっかいけよ!」
小学校高学年の男子たちに罵倒され、幼い日の真琴はただ泣くことしかできなかった。
「ぐすっ、…わ、私が先に順番待ってたのに…。」
男子の一人が、コートに座り込む真琴の腕を強く引っ張る。
「いいからどけって…!」
「痛っ……!」
「やめろ!」
その時、男子の足元めがけてテニスボールが飛んできた。
彼らが狼狽えて急に手を離したので、真琴は尻餅をついた。
顔を上げると、そこには真琴が待つ3人が立っていた。
「みんな…!」
「げ、幸村…。」
ボールを打ったのは幸村だった。
真田と柳も険しい顔で相手を睨んでいる。
「君たち、真琴に何をしてるの?」
幸村が凄む。彼の怒りを買ったことに気づき、男子たちは青ざめた。
「に、逃げろ!」
彼らは蜘蛛の子を散らすように一目散に走って去っていった。
「全く、懲りないやつらだな。」
真田がふん、と鼻を鳴らした。
幸村が真琴に手を差し伸べる。
「真琴、大丈夫?立てるかい。」
真琴はこくんと頷き、彼の手を取って立ち上がった。
「ごめんね。いつも守って貰ってばっかりで。」
柳はふるふると首を振ると、真琴にラケットを手渡した。
「気にするな。あいつらも、お前のことが気になるのだろう。
さあ、今日は何をしようか。」
柳の問いに、幸村が目を輝かせる。
「この前蓮二が教えてくれたボレーをやろうよ。
もっとこう、ギュンって返したいんだ。」
幸村の提案に真田も賛同した。
「それは良いな。よし、蓮二。俺が相手だ。」
「真琴はそっちで構えてて。いくよ。」
「うん!」
さっきまで泣いていたのが嘘のように、真琴はぱっと笑顔になった。
この頃は毎週のようにみんなでテニスをしていて、週末が楽しみで仕方がなかった。
近所にテニスをしている女子があまりいなかったせいか、真琴はよく場所の取り合いなどで男子に絡まれ、その度に3人が真琴を助けてくれた。
(今は助けられてばかりだけど、
いつか私もみんなを助けられるような強い人になりたいな…。)
守られてばかりではなく、守れるようになりたい。
真琴はいつからかそう思うようになっていた。
願いは叶わないまま月日は流れ、彼女は親の都合でこの街を去ることになったのだった。