(※刹那と永遠の調和の夢主。英雄王→セイバーオルタ描写があります、苦手な方はご注意下さい)



「パラケルスス、何か言うことは?」

突然、目の前で起きた出来事に藤丸立香は自身のサーヴァントであるキャスター、ヴァン・ホーエンハイム・パラケルススに真顔で問う。パラケルススは少し考えた素振りを見せた後、素直に答えた。

「失敗しました」
「ですよね!!」

つい先程、魔術の師であり人類最後のもう一人のマスターでもあるみょうじなまえと廊下を並んで歩いていると、パラケルススに声をかけられた。いつも特異点の修復等で走り回っている二人の疲れを少しでもとるために、特製の栄養剤もとい霊薬を用意したという。前科がある為とても疑ったのだが、ちなみに霊薬はプリン味です、と言うパラケルススに疑いはどこへやら、飲みますとなまえは返事をし、立香は無理やり付き合わされることとなった。
パラケルススの部屋に着くなり小瓶を手渡される。プリンの味を再現する為になるべく様々なものはあえて抑えて調合したとパラケルスス。何を調合するのを抑えたのかと突っ込みたくなったが、立香はあえて口には出さなかった。
とにかく怪しい霊薬を前に立香は葛藤する。ここは師でもあるなまえとやはり相談をするべきかと視線を向けた刹那、ボンッという音とともに白い煙が立ち上った。えっ!? と驚くや否や、煙は消え、なまえが立っていた場所には幼い少女の姿。少女はぱちぱちと瞬き、きょとんとした色を浮かべて立香とパラケルススを交互に上目で見やる。じっと少女を見やり、もしかして……、と立香は思い当たる人物の名前を呼んだ。

「なまえ?」
「なに? りつか」

ちょいと首をかしげる仕草は、立香の知っているなまえに瓜二つだ。衣服ごと小さくなった師の姿に、妙に冷静になった立香はパラケルススに視線を戻して冒頭に戻る。

「りつか、なんかおおきくなった?」
「いや、なまえが小さくなったんだよ」

視線を下げてなまえは自身の姿を確認する。数秒後、再び顔をあげたかと思うと、マジデスカ、と口を大きく開け信じられないといった表情をしていた。

「まさかこんなことになるとは……恐らくですが、今日一日、早くて半日ほどで自然に元に戻るかと。本当に、まったく。強い薬を調合したわけではありませんので」
「えらく強調したね。一応振りかなって思ったから聞くけど、本当に自然と元に戻るの?」
「はい……たぶん」
「だってさ、なまえ」
「"だってさ"――じゃないよね!? ていうかぱらけるすすさん、たぶんっていった!!」

何のことやら、とパラケルススはふいと顔をそむける。こんなのぜったいおかしいよ! となまえの抗議は続く。

「ていうか、りつかずるい! ぜんぜん、ぱらけるすすさんのちょうごうしたれいやく、のんでない!!」
「いやだって、疲れのとれる霊薬って言われて渡されても……パラケルススの調合したものだよ? 前科がたくさんあるんだよ? 警戒するじゃん、普通」
「しんじてあげようよ!」
「信じた挙句に小さな子どもにされた人の言う言葉じゃないと思う」

あまりの正論に、なまえはぐうの音も出ず言葉に詰まる。味はいかがでしたか? とパラケルススはなまえに尋ねた。さいこうでした! と、即答するのとあわせて親指をグッと立てる。パラケルススも親指をグッと立てた。そんな二人を冷めた顔で立香は見つめる。
パラケルスス曰く、何度も言うが自然と元に戻ることは保障するとのことだ。遅くても今日の夜中までに元の姿に戻らなければまた訪ねて来てほしいと言う。そうする、と立香は力なく頷くと、とりあえずここにずっとるわけにもいかず、幼くなったなまえの手を取り部屋を出た。
さてどうするか、と立香はなまえの手を引き歩きながら考える。元はといえば自身のサーヴァントが引き起こした種でもあり、マスターとしての責任がある。ちらっとなまえを見やると、一生懸命、立香に付いて来ていた。普段の歩行速度は今のなまえにとっては大変なようだ。立香は速度をゆっくりと落としてなまえに合わせる。もし、自分に妹が居たらこんな感じなのだろうかと不思議な気持ちになった。立香の手を握り返してくれる小さな手に、ちょっとだけ胸が高鳴った。

「とりあえずどうしようか?」
「みちのまんなかでなやむのもあれだから……とりあえず、ぷりんがたべたい」
「ぶれないなー、本当。ある意味尊敬する」

えっへん! と胸を張るなまえに、褒めてないよ、立香は言う。むすっと頬を膨らませたなまえに、拗ねるなよ、と立香は苦笑した。一先ず食堂へ向かうことが決まり、廊下を曲がった瞬間、ぱたりとある人達と出会った。

「マスター、その子どもは誰だ」
「雑種、此処は何時から子の溜り場となった」

出会ったのは、立香が契約をしているセイバーのサーヴァント――この世界のアーサー王こと、反転したアルトリア・ペンドラゴンと、アーチャー――英雄王もといギルガメッシュだった。察するに、ギルガメッシュの口説きにアルトリアは歩きながら流していたのだろう。なまえは二人を見るなり咄嗟に立香の後ろに隠れた。
アルトリアとギルガメッシュの冷たい瞳がなまえに注がれる。二人ともやめてくれ、と立香は手で制した。

「この子……かくかくしかじかな事情で小さくなったなまえなんだ」

束の間の沈黙。しかし、程なくしてそれを破ったのはアルトリアだった。
すぐさまなまえに駆け寄り、膝を折るなりまじまじと見つめる。そしてふわりと微笑むとやさしく抱きしめた。

「嗚呼、そうか。なまえだったのか……睨んだりして悪いことをした。許すが良い」
「え、と……はい」

反応に困りながらもなまえはこくりと頷く。美しい少女と愛らしい幼子のツーショットに、立香だけでなくギルガメッシュも息を呑んだ。だが、ふっとギルガメッシュは口元を緩めるといつもの高笑いを発した。

「随分と幼くなったな、雑種! だが、なかなかどうして……目を見張るほどに似合っているではないか」
「おうさま、ほめてるの?」
「褒めているのだ、感謝するが良い」

なまえに近づき触れようとしたが、間一髪でアルトリアが抱き上げて阻止した。

「私の所有物に触れるな、英雄王」
「ハッ。何を言う、セイバー。貴様の所有物は謂わば我の所有物だ。二人で立派な淑女に育ててやろうではないか」
「断る」

即答したアルトリアにめげず――というよりもいつものように良いように自己解釈し、照れるな、とギルガメッシュは笑う。なまえの手を取り、まずは絢爛豪華に着飾ってやろう! と言った。

「その手を離せ、英雄王! なまえは今から私と優雅にバスタイムを過ごすのだ。つるつるぺたぺたすべすべな肌を思う存分味わうのだ、邪魔をするな!」
「それは我も混ざりたいぞ、セイバーッ!」
「いたい! いたいいたいー!!」

アルトリアは体を、ギルガメッシュは手を、それぞれ反対方向に引っ張る。力加減を知らない二人の所為で、あまりの痛さになまえは声を上げた。傍観していた立香だが、さすがにこれは止めなくてはと割って入ろうとした時だった。

「何をしているんだ二人とも!」

聞き覚えのある声がするや否や、現れたのはなまえが唯一契約をしているサーヴァント――異世界のアーサー王こと、アーサー・ペンドラゴンだった。悲痛な声が聞こえて急いで駆けつけてきたらしい。アーサーはアルトリアからなまえを奪い、守るようにして抱き上げると、まったく、と息を吐いた。
小さな子どもを引っ張り合うとは何を考えているのか、とこぼし抱いている少女に視線を向ける。数秒と経たずに、ぱちりと目を瞬いた。

「――なまえ?」

立香が少女の正体を告げる前にアーサーは言い当てた。アーサーはしっかりとなまえを抱えなおす。アーサーが来てくれて安心したのか、なまえはほっと安堵する。

「アーサー、良くわかったね? アルトリアもギルガメッシュも、その子がなまえだって言うまでは誰かわからなかったのに……」

やはりマスターとサーヴァントには何かしらの繋がりがあるのだろうか、と考えていると、実はね、とアーサー。

「この姿のなまえと、以前に一度会ったことがあるんだ。だから――」
「貴様、まさかその歳のなまえに既に手を出していたのか!? 唾をつけていたのか!!」
「異世界の騎士王にはそういった趣味趣向があったとは……滑稽な話よな」
「君達は少し黙っててくれるかいっ?」

真面目に話を進めようとしていたが、アルトリアとギルガメッシュにより遮られた。きつく返すものの、なまえをとられたという怒りの気持ちが強いのかアルトリアは随分と拗ねた色をし、ギルガメッシュはというとそんな彼女を眇め見つつ囃し立ててくる。これ以上は埒が明かないと悟ったのか、アーサーはなまえを抱えたまま別方向へ廊下を歩き始めた。恐らく、向かう場所はなまえのマイルームだろう。
そんなアーサーの後を追おうとしたアルトリアとギルガメッシュを引き止め、これ以上ややこしくするようであれば令呪を使うと告げたのが効いたのか、興が削がれたと残して二人は去っていった。後で二人には、エミヤは怒るかもしれないが、食堂で好きなものをリクエストして良い券を提示して機嫌を直してもらおうか。それとも別の物の方が良いか――後輩のマシュ・キリエライトに相談に乗ってもらい、一緒に考えてもらおう。
立香は気持ちを切り替えると、アーサーの背中を追いかけた。

「アーサー、待って!」
「リツカ? 何か用だろうか。それとも、私ではなくなまえに用かい?」

わたし? と小首をかしげるなまえに軽く頭を横に振り、アーサーに用があるんだ、と続ける。

「かくかくしかじかな事情で子どもになったけど、キャスター……パラケルススが言うには、遅くても今日の夜中までには元の姿に戻るだろうって。もし戻らなかったら……パラケルススの部屋に殴りこみに行って。俺は見て見ぬふりをしておくから」

そっと目を逸らした立香に、わかった、とアーサーは一呼吸あけて頷く。朗らかな雰囲気を出してはいるものの、夜中までになまえが元に戻らなければきっと――否、絶対に殴りこみに行くだろう。その時はマスターとしてパラケルススの無事を祈るだけだ。迷惑をかけたね、と言い再びアーサーは背を向けて歩き始めた。またあとでしょくどうでねー! と元気に声をあげるなまえに、また後で、と立香は手を振った。
とりあえず――まずは食堂に行って、そこに居るであろうエミヤにプリンを注文しよう。そして次に、メディカルチェックを終えたであろうマシュに会いに行こう。

(俺、今日すごくがんばった気がする……)

まだ昼前だと言うのになんだこの疲労感、と呟きながら、立香は肩を落としてとぼとぼと歩き始めた。



マイルームへ着くまでの間、アーサーは何も話さなかったが、ぽんぽんと背中を優しく撫で続けてくれていた。マイルームへ到着すると、軽く息を吐くと同時にアーサーと目が合った。

「リツカの話では、正直理解ができなかったが……どうしてこうなったんだい?」

なまえを抱えたままアーサーはベッドの縁に腰かけた。アーサーの膝の上に座らされ、ええと、となまえは視線を逸らすも空いている手を片頬に添えられしっかりと顔をあわすかたちとなる。言葉に詰まりつつも、こうなってしまった経緯を簡単にだが説明した。自分の不注意が故に至ってしまったことに、アーサーは大きく肩をすくめる。
今後は警戒をするようにと告げるアーサーに、しゅんとうな垂れて、ごめんなさい……、となまえは謝った。

「――……なんだか懐かしいな」

ぽつりと呟いたアーサーに、ぱちりとなまえは目を瞬く。なつかしい? と言葉を復唱するとこくりと頷きアーサーは紡ぐ。

「けれど、初めて逢った時、君は泣いていたけれどね」
「それは、こどもだったから……」

アーサーと初めて逢った時のことを思い出す。
まだなまえが幼い頃、家族で父の知り合いを訪ねて数日間イギリスへ渡っていた日。両親達は話し合いがあるとか何とかで、一人はやくに就寝させられたのだが、途中で目が覚めた。暗くて広くて大きな部屋に一人ぼっちだったのが寂しくて怖くて、泣くのを必死にこらえて両親を探そうと部屋の扉を開けた瞬間、眼前には見慣れない景色――青空と美しい花畑が広がっていた。帰るにも帰れず、夢か現かの判別もつかず、我慢していたものが一気に決壊しそうになった時に彼と――アーサーと出会った。一人ではないということを知り、安堵した瞬間、箍は外れ大声を上げて涙した。
アーサーの姿はあの頃とは変わらない。けれど、変わらないその姿で再会し、不思議に感じたというよりも嬉しかった。

「その姿もとても愛らしいけれど、僕は……可憐な姿のなまえの方が好きだな」

不意打ちにも似た言葉になまえは息を呑む。突然のことに一気に頬へ熱がのぼり真っ赤に染まる。恥ずかしくて嬉しくて、けれどもどう返せば良いのかわからず視線を泳がせた。そんななまえに、アーサーは額に触れるだけのキスを落とす。止めの一撃にも似たそれは、更になまえの顔を赤くさせ、心臓を破裂寸前にまで高鳴らせるには充分だった。
気持ちのやりどころに困ったのか、なまえはぺちぺちと手でアーサーを叩く。小さな攻撃にアーサーは笑ったものの、次の瞬間、強かな瞳は大きく見開かれた。なまえが自身の唇をアーサーの唇に押し当てていたからだ。
ゆっくり離れると、なまえは照れた笑顔を浮かべる。瞬間、ボンッという音とともに白い煙が立ち上った。

「なっ――!?」
「きゃっ!?」

驚くや否や煙は消え、アーサーの膝の上に座っていたのは幼い少女ではなくパラケルススの霊薬を飲む前の姿に戻ったなまえだった。

「なまえ……戻って……、」

視線を下げると同時になまえは自身の体にぺたぺたと触れる。最後に二つのふくらみに手をやり、ちゃんとあることを確認すると、戻ったー!! と歓声を上げた。パラケルススの話では早くても半日という話だったが、いったいどうしたことだろう。パラケルススの計算が間違えていたのか、それとも何か別の作用があったのか――。
あまりにも唐突なことに、ふとなまえとアーサーは顔を見合わせる。しかし、程なくしてふっと二人はふき出した。
しばらく笑いあった後、そろそろ膝の上からおりようしたが、アーサーによって阻まれる。アーサー? と呼ぶと、今度は両腕の中にしっかりと閉じ込められた。

「ああ。やはり、こちらの方が良いね」

耳元で囁くようにアーサーは言う。なまえは軽く息を呑むも静かに深呼吸をした。腕を伸ばしてアーサーの背にまわすと、言葉では表せない安らぎがあった。肌に感じるぬくもりは、子どもの姿では感じ得ないものもある。瞼を閉じ、なまえは結んでいた唇を開いて伝えた。

「あの時の約束を守ってくれてありがとう、アーサー」

誰も知らない場所で交わされた小さな約束。いつかなまえが強大な悪(もの)に立ち向かわなくてはならない時が来たら力になること――その誓いを、アーサーは守ってくれた。今こうしてサーヴァントとして契約を交わし、存分に力を振るってくれている。
腕の力を緩めて少しだけ体を離す。けれどもすぐに、感謝と、敬意と、愛情を込めて――アーサーの唇に触れるだけのキスをする。それに応えるかのように、次はアーサーから、深く、それでいてやさしい口付けが落とされた。


世界で一番、誰よりも
(――愛しています)

愛子||180430(title=星屑Splash!)