眩しいひと
太陽のように明るく笑う顔が好き。良くも悪くもみんなに平等に接して、嫌味が無さすぎて「ラッコちゃんウザイ」なんて言われてしまうところも、ガーネットを連想させる目の色も全部全部全部好き。
「卒業したらユウをお嫁さんとして迎える」とカラッとした笑顔で伝えられた時は嬉しかったのと同じくらい複雑な気持ちが心の奥からじわりと滲んだ。彼からすると、この先何人も娶るうちの一人に過ぎないのだと言う思いが頭を埋め尽くす。この人は本当に私のことが好きなんだろうか。そもそも好意とかあるのか。子供のおままごとと同じようなものでは無いのか。当たり前かのように毎度の宴に呼ばれ隣によりそう自分に何度も問いかけた。私いまなにしてるんだろうって。耳のずうっと奥で音楽が鳴る。瞳のずうっと奥に私の後ろ姿が映る。
「ーーーユウ? ユウ?ユウー!」
カリムくんが私を呼びかける声でずっと奥にあった音楽が、きらびやかなスカラビア寮の風景が鮮やかに蘇る。相変わらず明るくてはつらつとした声に慌ててカリムくんの顔を見る。きょとんとする私ににこりと笑いかけ私の手を取り立ち上がる。
「…もう、宴終わったんだね」
「おう!こんな時間だからな、明日は休みだけどそろそろ休もうってジャミルが!」
にこにこと笑いながら話しかけるカリムくんの後ろでテキパキと片付けをするジャミルくん。あんなに散らかっていた談話室が見る見るうちに綺麗になっていく様に、この寮はこの人なしでは成り立たないことをしみじみ感じる。
「今日は泊まっていくんだろ?」
今日は布団を干しておいたからふかふかしてるぜ!と言いながら自室に向かうカリムくんの後を着いていく。干したのはジャミルくんだけどねーと言うとそうだなー!ジャミルが手入れしてくれたんだ、と笑う。もう好き。好きすぎる。
普通の学校生活だったら許されないこと。卒業後に正式に嫁入りすることがカリムくんのお父様から学園長に伝えられた後日、「学園を途中で辞めるような間違いだけは起こさないように。わかっていますね。」とだけ言われただけ。ありえない待遇にいくら受けとってるんだろうと思わずに居られなかった。
ーー順番にお風呂に入って、魔法で髪の毛を乾かしあっこして。宴楽しかったね、ふかふかの布団楽しみだな、なんてたわいのない話をして過ごせる二人っきりのこの時間がとても好き。カリムくんの肩に凭れて月の光だけが届く室内をぼーっと見つめる。
この先こうしてカリムくんを独占できる時間なんてどんどん少なくなっていくんだろう。たくさんお嫁さんをもらって、“みんな”で過ごす時間の方が多くなっていくんだろうと思うと私の中でどうしようもない独占欲が膨らんで、熱を孕んでいく。ちらりと相手を見上げると大きな目をきゅっと細めてカリムくんが笑う。
カリムくんとは、“そういうこと”をまだしていない。私にはこの人が性欲というものを持っているとどうしても思えなかったからだ。拒絶されたらどうしよう?怖がらせたら?いつもなら色んなことをぐるぐると考えて考えて考えた結果、何もしてこなかったけど今日は独占欲と熱に当てられるままに相手をゆっくりと押し倒した。
「……ユウ?」
「…えへへ」
押し倒したはいいものの気恥ずかしくなってしまい笑って誤魔化しながら上から避けようとした時、ぎゅっと腕を掴まれる。え、とま抜けた声を出したのもつかの間後頭部をくしゃりと撫でられるのと同時に相手の唇がゆっくりと私の唇を食む。
ちゅ、と音を立てて唇が離れ、伏せていた目をゆっくりとあげるとそこに映っていたのはいつもの眩しい笑顔はなく、目をほんの少し細め妖艶な笑みを浮かべた彼がいた。ガーネットを閉じ込めたような瞳が私を真っ直ぐに捉えているのがわかった瞬間全身の体温が上がるのを感じた。
ーーーえ、こんな顔知らない、え、
沸き立つ血液に大きくなる鼓動。魔法にかけられたかのように体が動かない。いつもの眩しいカリムくんじゃ、ない。
私を膝に乗せたままゆっくりと上半身を起こす。そのまま腰に手を回され、大きな瞳が私を捕える。カリムくんの顔には、どうしようもなく赤く火照ったわたしが見えているのだろうか。どうしようもない恥ずかしさに襲われ思わず顔を背けると ふふ、と楽しそうに笑う声が聞こえる。
月明かりに照らされたカリムくんの顔がいつになく妖艶で。どうしよう、と目を伏せると腰回されていた手がゆっくりと服の中に入り込み素肌を撫でる。
「…っ、え、待っ…て」
「…その気じゃなかったのか?」
押し倒したのはユウのくせに、と耳元で囁く。そこにはいつものお日様みたいな笑顔も、カラッとはつらつとした声もなくて、ただ月明かりに照らされた妖艶な彼がそこにいた。
相変わらずうんともすんとも言わない私にもう一度ゆっくりと口づける。ぎゅっと腰を抱き寄せて下唇を食んだり、吸い付いたり。ぞくぞくと背中をふるわせ肩に手を回してすがりつくと唇の隙間からぬるりと舌が忍び込む。ん、と声を漏らしたのを皮切りに服の中に入り込んだ指先が背筋を撫でる。
「……ーっ!」
びくりと腰を揺らしぐっと胸を押すとあっさりと唇が離れると少し目を伏せた彼が唇を舐めちゅっと音を立てて唇を吸う。首元に顔を埋めてぐちゃぐちゃな頭を必死に整理しようとするも初めて見る顔に、深い口付けに頭が働かないままはあと熱い息を着く。
頭上でふふ、と笑う声がしたと思えば私を抱き上げてふかふかのベッドに下ろされる。ひんやりとした砂漠の夜の風が火照った頬を撫でる。
───続きは、また今度な
声にハッとして見上げるとそこにはもう妖艶な彼の姿はなくていつもの優しい太陽みたいな笑顔が浮かんでいた。
それからはまたいつも通りの日常が続いてカリムくんもいつも通りの眩しい人に戻っていた。あの日見たカリムくんは夢だったのかも、宴の熱に浮かされた私の思い込みだったのかも。うんうんと1人で頷きながらカリムくんの部屋に向かう。
今日はなにするんだろ、マンカラでもするのかなぁ、喉がやけるほど甘い揚げまんじゅうでも食べるのかなぁなんて呑気なことを考えながらふわふわしながら軽くノックをしカリムくんの部屋に入る。
砂漠に広がる真っ赤な夕焼けと同じくらい真っ赤な宝石みたいな瞳がこちらを振り向く。あの人同じ妖艶な笑顔に、ぞくりと背中に沸きあがる何かを感じた。
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