カゴの中

モブ目線あり











「わわっ、ユウは本当に元気だな〜!」



談話室で和やかに過ごしている彼の懐になだれ込む。人目があるのにも関わらず半ば倒れ込むようにして密着しても嫌な顔ひとつせずに笑顔を見せてわたしを受け止めてくれる彼。視界の端にははあ、とため息をついたあとそそくさと仕事に戻るジャミル。


彼とお付き合いをしたばかりの頃は毎日が刺激的で楽しくてただ一緒にいることが楽しかった。馴染みのない熱砂の国の文化や食べ物、習慣などに触れることが出来て彼をひとつずつ知っていくようで心が踊ったのを今も鮮明に覚えている。

そのうちホリデーになると実家に招待をしてくれたり、民族衣装を着せてくれたり。いずれ着ることになるだろうと婚礼服を着せてくれたりもして。甘やかな色香が漂うようなことはほとんど感じられなかったけど、ただ無邪気に楽しくて嬉しくて彼といるのが幸せだった。


いや、今も幸せなのだけれど。


彼のお家や文化に触れていくうちに、彼はいずれたくさんのお嫁さんを娶ることになるのだろうという避けようのない出来事が徐々に私を蝕んでいく。もしかしたら、彼を独占できるのは今だけなのかもしれない。そんな考えばかりが頭を支配して、以前は初々しく距離感を保ちつつ接していたものの、今ではこんなにふてぶてしい顔をしながら人目をはばからず密着するまでになっていた。


だって、きっと、そのうち彼は私だけを見ていてくれる訳ではなくなる。


そうしたら、今のこの状況をフル活用せねば損ではないか?飽きるほど彼のそばにいて、その頃にはすっかり飽き飽きしていれば独占欲でぼろぼろになることもないのではないか?そんな浅はかな独占欲をにじませて今日ここまでやってきている。


そんなことひとつも知らないだろうな、と思いながら寮生と談笑する彼を見上げると視線に気づいた彼が顔こちらに向けてにっと笑い頭を撫でる。
時々とんでもなく無神経な刃を向けてくる一面もあるものの、彼は欲しいものを全て私に与えてくれる。見返りを求めることも無くだ。


そんなんだから私の独占欲も好きも執着も依存もどんどん高まる一方で、どろどろとした自分と彼に構われて嬉しい自分の間でどんな顔をするべきかわからず不貞腐れたぶさいくな猫のような顔になってしまう。むくれた頬を彼の指先がむにゅむにゅとやわらかく沈んでいく。どろどろとした感情を抑え込むため、まぶたごと全てに蓋をしゆっくり呼吸をすると、頬を柔らかく刺激する指先、すぐそばにある体温、嗅ぎなれた安心する彼の香りを感じゆっくりと夢の世界へ堕ちていく。





「…あ…ユウさん寝てしまいましたね」

「お、ほんとだ、こいつこうするとすぐ寝るんだよなー」



寮生が持ち込んでくれていたボードゲームを片手でやりながらやわらかくユウの頭を撫でる。
目の前の寮長はふふ、と表情をほころばせ愛おしそうな顔を見せる。


2年生が始まってまもない頃、いつものように突然開かれた宴で「俺の恋人を紹介する!」と声高らかに発言した寮長の隣でもじもじと恥ずかしそうに笑っていた人は今やこんなにもスカラビアに入り浸るようになった。

はっきり言ってしまうとこんなに色恋沙汰に興味がなさそうな寮長が恋人を連れてくるなんて夢にも思わず。最近やけに宴に招待されているとは思ったものの、恋仲とは思っていなかった寮生たちみな度肝を抜かれた思いだった。



穏やかな日々が続いていると思えば、彼女の表情は日に日に憂いを帯びたものを見せ始め、今では元気をなくした猫のようになってしまった。それでも寮長はいつも通り接して、愛おしそうな顔を向ける。少し眉を下げてなにか不安そうな顔をうかべた彼女が寮長にすりよっている絵面ももう目に馴染むほど見慣れた光景になっている。



時々副寮長に漏らしていた、いつかきっと私だけじゃない時がきてしまう、と。それが苦しくて辛くてたまらなくなる、と。

それが君の立場だ。正妻になるならそんなことだけを憂いていられない。覚悟がないのなら早く見切りを付けるべきだ。とはっきり伝えた副寮長。

表情一つ変えずに1回だけ頷いたあと、寮を後にしてしまった時にはどうなるかと思ったがその後きちんと寮長にも提言をしていたあたり彼はとても面倒見が良く、従者の勤めだ家のためだなんていいながら世話を焼いていた。


今も目の前でぴったりとくっついて愛おしそうに顔を見つめる寮長を見れば、どの決断をしたのかは明らかではあるが。



「……ああ!悪い!手が止まっちまってたな」

「大丈夫ですよ、寮長」



好きなんですね、と思わず口からこぼれてしまえば一瞬目を大きく開いてすぐに豪快にあっはっはと笑う。



「そうだな、大好きだ」