右斜め上





「え、お前ら付き合ってないの!?」



ホームルーム後の教室。まだ少し生徒が残る中、クラスメイトの叫び声に似た声が教室に響く。何をそんなに騒ぐことがあるんだろうと思いながら少し背の高いジャミルくんに後ろからひっついたまま彼と同じクラスの獣人をぽけーっと見つめる。


「だってそんなにくっついて…!カリムと一緒に居ない時はいつもユウと一緒にいるじゃん……!」


相当想定外だったのだろう、耳もしっぽも忙しなく動かしながらあれもこれもと普段の2人の様子をペラペラと喋っている。よくもまあそんなにしっかり見ているものだな、と思いながら特に返事もせずにジャミルくんの長い髪を梳かすように触れていた。早く終わんないかな、この話。早く二人きりになりたいんだけど。

男子高校生というものはこんなにもよく人のことを見ているものだと思う。当のジャミルくんはといえば人の良さそうな顔を浮かべながらみんなが心配するような事じゃないさ、と告げている。

だって、そんな、ユウからジャミルの匂いしかしねーって!などと獣人族にしか分からない話を展開し始めた。そりゃ、一緒にいれば多少香りも移るかもしれないけど他の人が気にすることでもないのでは。後ろの生徒たちも聞き耳頭巾で動きが停止してるのバレバレですよって感じ。


「ああ、それは寮で香を焚いているから強く感じるんじゃないか」

「いや、なんか飄々としてるけど距離感バグってるよ……お前ら……」

「心配かけさせてすまないな」


あくまでもにこやかで本心は口にしない。でも私の行動を制限するようなことはしないところにこの人の独占欲の強さというかなんというかを強く感じる。そういうところが好きなんだけど、と想えばつい顔がニコニコとしてしまう。


ああやきもきする、早く付き合ってるって言ってくれ……とフラフラと仲間内の元に行ってしまったクラスメイト。何をそんなに気にすることがあるんだろうと思いながら「行くぞ」と手を引っ張られて教室の外に出る。

何も言わずに、さも当たり前かのように手を繋いで歩くようになったのはいつからだろう。好きな人の隣にいれることがただ嬉しいって気持ちで追いかけ回していたらいつの間にかこうなってた気がする。

私の歩幅に合わせて歩いているジャミルくんを少し見あげれば嗅ぎなれた彼の匂いが風のせいか強く香る。


「私からジャミルくんの匂いするんだって」

「そりゃそうだろ」

「今日も言うねえ」



くんくんと自分の袖の匂いを嗅いでみてもジャミルくんみたいな甘くてスパイシーな匂いはあまりしない。寮長が選んでくれた香水の匂いしかしないように感じて んー、と声を漏らすとふふ、と笑い声が斜め上から聞こえてくる。



「素直というか阿呆というか」

「だってしないよ」

「そういうことじゃない」



人前で滅多に見せない柔らかい顔を見てどきりと胸が高鳴る。いつもポーカーフェイスで、人の良さそうな顔をする以外で感情を表に出さないこの人が表情を崩すのを見るとああ本当にこの人が好きだと何度も実感する。



「ジャミルくんだいすきだあ」

「知ってる」



えへへ、と微笑む彼女にそっと口付けを落としせばスキップしだしそうな勢いで喜んで跳ねてみせる。

名家の中でも屈指の立場をもつ従者のお嫁さんになれるかも分からないし、いつ死んでしまうかもわからない。だからこそ形で彼を縛ってしまわないように言葉にしていないだけで彼は私の1番で。私は彼の1番で。


私が彼を好きでいさせてくれるならそれだけでもいい。ただ、どうかこの時間がずっと続きますようにと願わずにはいられなかった。





さっきのクラスメイトが教室から少し身を乗り出してずっと見ていたことも、全身の毛を逆立ててあわあわしているのをわかっててやる従者と何も気づいてないジャミルくん大好きな女子生徒のお話。