アズールとの絡みが多い理由

≠恋愛感情のつもりで描きましたが想像におまかせいたします。
クリオネちゃん=夢主様
小さくてふわふわしてるのに凶暴な時があるから





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「獣人用の抗発情薬より強いものを、ですか」

「お願いできるかな」



お金はいくらでも用意できるから、とマドルが入った封筒を差し出す。研究費用も材料費もこちらで持つ。もし可能なら、妖精族たちにも効く成分も入れて欲しい。と話す女子生徒は耳もしっぽも生えていない。至って普通の。発情とは無縁そうな女の子らしい女の子と言ったところだ。

なんの意図があってそんなものを?破格のマドルを担保にして頼んできた意図は?なにか裏があるのではないかとメガネの奥の瞳が疑念を抱く。



「誰か貶めたい方でも?」



冗談めかしているようでめかしていない。ニコリと笑う瞳の奥でなにもかも疑っている。自分に不利益がないように。1ミリでも多く搾り取れるように。初対面で耳障りのいいこと言う人間には、信用してはいけないなにかがある。お互いにそう思っていた。


「満月の夜に発情してしまう」

「自分は夢魔と吸血鬼とその他もろもろが複雑に混ざり合った混血」

「誰彼構わずしていたらこの学園では生きていられない」

「相手が見つかる間だけでいい、報酬は欲しいだけ支払う 実験も私でしてくれて構わない」

「契約ならば守秘義務を守ってくれそうだから貴方にもちかけた」



にこりと人のいい笑顔をうかべたアーシェングロットは腹の探り合いを始めようとおもったものの、目の前の少女があっさりと白状し始めるものだから思わず表情が固まる。


「……あー……やっぱり嫌だよね、ごめんね」


はあ、と溜息をつきながら頭を抱える女子生徒。NRCでの数少ない女子生徒であり、特待生として最果ての地からやって来た何の変哲もない少女。

マレウス・ドラコニアのような周りを圧倒させるほどの魔力は無いものの潜在的な魔力の高さは勘の悪い人間でも察知はできるくらいだった。そのくせコントロールは下手くそで飛行術以外の実戦魔法では大爆発を起こしたと思えばそよ風しか吹かせられなかったり色々と目立つ存在ではあった。

リドルほどでは無いが、アーシェングロットと肩を並べられるくらいには勉学にも精通していた。

禁足地である最果ての地出身のためか一般常識から大きく外れていたり、人と壁を作る癖があるとの認識もあった人間がわざわざマフィアのような血も涙もない人魚に伝えた願いは切実なものだった。

ここで恩を売っておけば禁足地とのツテものぞめる。禁足地には娯楽があまりなく、ビジネスを展開するならこれ以上にないチャンスだ、と目を光らせる。


「お約束はできません……でも」

「でも?」

「やるだけやってみましょうか。ここにサインを。」



失敗しても、作れなくても担保となったマドルは全て押収。開発期間は余裕を持って1年間。完成までの期間は獣人用の抗発情薬を飲んでもらう。完成した際には追加でのマドルの支払いで契約が締結する。


それからモストロラウンジと学園生活の合間を縫っては薬の調合を行い、実際に飲んでもらい、感想を聞いては調合を変える。そんな生活を半年も続けていた頃、やっと女子生徒が納得のいく薬の開発ができた。追加のマドルもたんまり頂きあとは禁足地とのパイプを……なんて思っていた矢先。


こんなに早く完成するなんて思ってもみなかった!と大喜びする彼女に飛行術教えてあげる!と提案されたのがアーシェングロットの運の尽きだった。

だって下手くそで見るに耐えなかった!なんてとびきりの笑顔で言われれば普段表情を崩さないジェイドでさえ吹き出してしまっていた。
おっとりして可愛いのに言うじゃーん、有望、なんて他人事見たくゲラゲラ笑うフロイドにぎりぎりと歯を噛み締めるアーシェングロット。


翌日、とんでもない高さまで飛行されたかと思えば急降下、急停止、急発進。旋回までされるもんだから陸になれたばかりで飛行術もままならないアーシェングロットからすれば地獄そのものに違いなかった。ひとつ幸いだったのが、女子生徒にお願いしてでも飛行術に真剣に取り組んでいる、とバルカス先生に間違って認識された上に大変評価され、成績が少し向上した事だった。

禁足地とのパイプのため、なんて口実を作りつつも男女の垣根を超えて楽しそうにはしゃぐ彼女との時間が嫌だったか、と聞かれればはっきりNoとは言えない事実もあった。



彼女に恋人ができて、薬が必要なくなっても彼女はアーシェングロットと飛行術を楽しみ、モストロラウンジに通い続けた。





3年生の終わり。
当たり前かのように閉店後のモストロラウンジに居座りフロイドの賄いをおいしいなあーと腑抜けた声で喜びながら食べる彼女がいた。

採れたてキノコのスープもありますよと嬉しそうな顔で進めるジェイド。食べられるか分からないキノコのスープを進んで受けとり、食べてはいけない味がしますねえ!!なんてコントをしている。


「あなたたちはもう少し静かにするとかないんですか!100マドル合わないんですよこっちは…!」

「足元に落ちてるよ」

「……!!」

「アズールお腹減ってるんだよ、賄い一緒にたべようよ」

「…結構です、本日の必要分は摂取し終えたので」


まんまるおでぶちゃんに戻っちゃうもんねぇとげらげら笑う趣味の悪い3人にぎりぎりと歯をきしませるアーシェングロット。

こんなふうに過ごせるのももう少しなんだね、と彼女が静かにつぶやく。もうすぐ4年生、インターンが始まる。各生徒は自分でインターン先を選んで各地に配属されていく。海に帰るもの、都市部に向かうもの、地層学を学びに行くもの、経営を深く学びに行くもの。例に漏れず4人はそれぞれ散り散りになってしまうことが決定していた。


「いくらでも連絡はとれるでしょう」


勘定を数えなおしながら何を寂しく思うことがあるのです、と口にする。アズールはわかってないー!と彼女とフロイドがやかましく騒ぎ立てる。ああうるさい。だいたいモストロラウンジのスタッフでもないのになんで居座っているんだこの女は。などと頭をキリキリ痛ませているものの、なんだかんだ許しているのは他ならない支配人のアーシェングロットだった。



「でも、アズールがそう言ってくれるならいっか」



飛行術を教えてあげる、と言っていたあの時と変わらないとびきりの笑顔で。いっぱいメッセージ送るからね、と笑う彼女にでは僕は新しいキノコの写真を、と微笑むジェイド。俺はキノコの写真いらねーからね!と眉毛を寄せるフロイド。



こんなに騒がしいのを相手にできるのは僕くらいだ、と少し満足そうに微笑むアーシェングロットがいたことは本人も露知らず。




じゃあ俺らはお先に〜とひらひら手を振って帰っていく2人を見送るといつも通り彼女をポムフィオーレ寮まで見送る“いつも”のルーティン。そう言えば彼女の恋人に嫌な顔をされたこともあったような気がする。

高すぎる空を見上げながら、いつの日かの飛行術の授業を思い出していた。空が薄暗く、どんよりとした日だった。故郷を思い出す、と彼女がつぶやく。


最果ての地生まれの人間はね、みんな死んだら体の一部が魔法石になるの、と。


意図的な交配によって妖精族に匹敵するほどの魔力はあるものの短期的かつ人為的ないわゆる品種改良だから器が成熟していない。器を保持するために寿命を削らなけらばならない。長く持っても50代は迎えられないだろう。祖母も40代で亡くなった、曾祖母は40歳にもなれなかったと彼女があっけらかんと笑う。




様々な血が混ざり合い、人の精気とほんの少しの魔力を吸い上げているため最果ての地の中でもとてもよい魔法石ができるらしいよ。

そしたらね、アズール。あなたのビジネスの一部にして欲しい。一欠片で何億マドルを超えた人もいたよ、いいビジネスになると思わない?

他の人の手に渡るくらいなら、あなたの手でより価値のあるものに変えて欲しい。お願いね。



契約書書こうか!と明るく笑いながら振り返った彼女に「僕の手にかかれば何億マドルですむでしょうか?」なんてジョークで返すのが精一杯だった。あの気持ちを形容する言葉は、今も思いつかない。




珍しく考え事なんてしながら歩いているとポムフィオーレ寮の目の前へたどり着いていた。

誰かに襲われて体の一部でも欠損したら価値が落ちてしまうでしょうから、という口実の元で始まったルーティン。はたして本当にそれだけなんだろうか。

ありがとう、またね、と笑う彼女を見送り帰路に着く。




彼女に対する気持ちは形容できないまま。
願わくば、モストロラウンジで過ごしたやかましく賑やかな日々が一日でも長く続いても悪くないかな、と思う。