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前日から泊まりに来ていた両親より一足先に名前は家を出た。箱根学園は今日卒業式を迎える。学校までの道のりも今日で最後となる訳で、入学式以来あまり周りを気にしながら登校をしていなかった事に気がついた。

「最後か。」

たった三年間ではあるが、とても青春していたと思う。
高校生活は楽しいばかりではなかったとは思うが、思い出されるのは楽しい思い出ばかりだ。
中学生で初めて人を好きになり、叶わぬ恋だと思っていたが、同じ高校、同じクラス、同じ想い。

「もう奇跡だよ。」

思わず言葉に出てしまった。奇跡。
中学時代に挫折を知り、高校時代に這い上がった。それは名前の力ではなく、彼の周りの友人や彼自身の力だった。そこに入れなかったのは少し残念には思うが、彼が友人らといる時の表情を名前は好きだった。

ふと気がつけば、男子寮がすぐそこに見えた。寮門から今日卒業するであろう男子生徒がぱらぱらと出てくる。その中に、彼の姿を見つけた。一人だったので、声をかけようと走り出そうとした時、福富の腕を引く新開とそのすぐ後ろから東堂が小走りで彼の隣に並んだ。
名前は、少し離れた後ろで朝からわいわいと騒ぐ四人の姿を見ながら登校した。

「靖友くん、おはよう。」

下駄箱で追いついた名前は、荒北に声をかけた。

「オハヨォ。……なに、ニヤニヤしてんだヨ。」
「朝から仲良しさんだなぁって。」
「ハァ?」

荒北は何を言っているんだといった顔で名前を見た。

「わーっははは!俺たちは、いつでも仲良しさんだそ!おはよう!」
「おはよう、東堂くん、新開くん、福富くん。」

新開はにこやかに、福富は重責から少しは解放されたのか柔らかい表情で名前におはようと言った。

「んだよ。」

荒北は、登校の様子を見られていた事に気が付いたようだ。

「声かけろよな。」
「うん、なんか、うん。」
「ア?」
「靖友くん、楽しそうだったし。それを見てるのも楽しかった。」
「………なんだそりゃ。」

上履きを履き替えた後、二人で教室へと向かった。
教室内は、普段ならまだ数人程度しかいない時間だと言うのに、今日は既に半分以上登校している。

「みんな早いね。」
「普段から早く来いっつーの。」
「靖友くんだって、いつもはギリギリじゃん。」
「っせッ!」

席に着き各々の友人達と話たり、写真を撮ったりとしていれば、すぐに式の時間へとなった。

クラスの多い箱根学園は、各クラス代表で名前の順一番最初の生徒だけが名前を呼ばれ返事をする。

「荒北靖友。」
「ハイ。」

名前のクラスは、もちろん1番である荒北の声が響いた。それを聞いた名前は、込み上げてくるものがあり、そんな自分に苦笑いしつつもぐっと堪えた。




式の後は、各クラス担任からの祝いの言葉の後にそれぞれ卒業証書を貰って終わった。

それからは、写真撮影会かと言う程、みんなあちこちで思い出を残している。もちろん名前もその中のひとりだ。荒北もかなり顔を歪ませ面倒くさがりがらも、写真に収まっているようだった。教室での写真撮影に飽きてくれば、今度は場所を変えてまたそれは始まる。
気がつけば、教室には名前しか残っていなかった。

ベランダに出て下を覗けば、そこは賑やかだ。その声を聞きながら、名前はそれを楽しそうに眺めていた。






「なァにしてんだよ。」

いつの間にか教室へと戻ってきた荒北に声をかけられた。

「靖友くん。卒業しちゃったね。」
「まあ、出来なきゃヤベーけどなァ。」

荒北は隣に立つと、名前と同じようにベランダの縁に肘を乗せた。

「遠距離、始まっちゃうね。」
「まだ、合否分かってねェけど?」
「靖友くんなら受かるよ。」
「そうだといーんだけどねェ。」
「本当に頑張ってたもん。」
「オメェもな。」
「うん。」

そこで名前は黙ってしまった。

「寂しいんか?」

荒北の優しい声が響いた。

「寂しい。寂しいし……怖い。」
「怖い?」
「だって、6年も側にいれたのに。4年も離れるんだよ。」
「離れるっつっても、会えるだろ。」
「そうだけど。」

名前は自分でも面倒くさい女になっているのは気づいている。それでも口に出してしまう。

「面倒でごめん…。でも、たぶん私大学始まってからも寂しいとか会いたいとか、いっぱい言うかもしれない。
靖友くんにいっぱいうぜぇって思わせるかもしれない。」
「なんねェよ。つぅか、なる訳ねェだろ。なんか勘違いしてねェ?」

荒北は、ベランダの縁にある強く握った名前の拳に手を重ねた。

「あのなァ、それオメェだけじゃねェし。オレだって、寂しいとか会いてェとか思うんだけどォ?」
「え、靖友くんが?」
「オイ、当たりめェだろ!好きな奴にそう思うの当たり前なんじゃねェの?」
「好きな人…はは、うん。」
「そーゆー事ォ。オレは、名前の事好きなんダヨ!覚えとけ!」

顔を上げれば、赤い顔をした荒北が名前を真っ直ぐに見ていた。

「うん。私も靖友くん大好き!」
「ハッ!知ってるゥ。」

中庭には、写真に満足した卒業生が自然と集まり出していた。そこにいる友人達に名前は呼ばれ、また写真撮影会に入る事にした。

「靖友くんもまだ部活まで時間ある?」
「オー、ある。」
「じゃぁ、写真一緒に撮ろうね。」
「ゲェ…。」

教室での写真撮影会を思い出した荒北は思わず苦い顔になったが、名前との写真はいくらでも撮っておきたいので、あと少し我慢するかと思った。荒北は写真後にそのまま部活へと顔を出せるように、かばんを持って名前と教室を出た。

「あーやっぱり寂しいー!」
「教室がァ?箱学がァ?」
「両方!あと靖友くんも。」

名前は荒北の手を握ると、荒北も手を開き直し名前の手をしっかりと握った。

「まァ、この先ジジババになるまで、まだ何十年もあんだろ?そう考えりゃ、その中のたった数年だけだしよ。あっという間だろ。」

荒北の言葉に、名前は思わず固まってしまった。それに気付いた荒北は、どうしたと名前を覗き込んだ。

「…………ず」
「アァ?」
「それって、プロポーズ。」
「ハァァァァ?……アァ!?」
「だって、ジジババになるまでずっと一緒に居てくれるんでしょ?プロポ」
「チゲェ!!いや、違くねェけど、チゲェ!今じゃねェ!チゲェぞ!」

あまりの慌てぶりに、名前は吹き出して笑ってしまった。プロポーズではないにしろ、この先も当たり前のように一緒にいる事を考えてくれていた事が本当に嬉しく思った。

「随分と楽しそうだな。邪魔をしてしまったかな?」

その声に振り返ると、珍しく乱れた服装の東堂とその後ろに新開と福富、さらにその後ろに後輩の泉田と黒田が立っていた。

「うわっ、東堂くん服凄い事になってるね。っていうかカチューシャ!カチューシャまで取られたの?」
「わーっはっはっはっはっ!流石、俺。と言う事で、一度寮に戻って着替えてから部室に行こうと思ってだな。お前を探してたんだ。」
「ア?勝手に着替えてこいよ。」
「寂しいではないか!最後なんだぞ?一緒に付き合ってくれてもいいと思うぞ!」

そこから暫く東堂にガキかと言えば、荒北の薄情者との言い争いが始まった。名前は巻き込まれないように、福富達の側へと寄った。

「福富くんも新開くんもファンの子に渡したんだ?」
「うーん、俺も寿一もどちらかと言うとむしり取られた感じだな。」
「さすが、だね。」
「靖友は?」
「全部残ってるよ。やだよ、誰にも何も渡して欲しくない。」
「はは、それもそうだな。」

そんな話をしていたら、後ろからさらに声を掛けられた。

「あの…!苗字さん!オレもダメっすか?」
「ん?んんんん?何がダメなの?」
「いや、別にオレ尊敬とかしてる訳じゃないんすけど…。」
「あ、靖友くんの話?」
「そうっす!マジで尊敬じゃねーっすけど、まあ、多少はあの人に感謝…いや、ほんの少しだけ感謝してなくもないんで。」
「ん?それ、本当に靖友くんの物が欲しいの?」
「……っくぅ…。」

ふと名前はクソエリートという言葉を思い出して笑いそうになってしまった。隣にいた泉田が呆れたように助け舟を出し始めた。
泉田曰く、黒田は荒北に関してのみ素直になれないが、本当は尊敬し感謝をしている。自分も憧れの新開からネクタイを貰った。それが何にと思うかもしれないが励みにはなる。だからお願い出来ないかと丁寧に名前へと話した。

「そんな風に思ってくれてるなんて、私まで嬉しくなるな。黒田くん、どうぞ。靖友くんから励みになりそうな何か貰っちゃって下さい。って私の許可はいらないんだけどね。」

未だ東堂と言い合いをしている荒北を呼んだ。そして黒田は荒北から泉田同様ネクタイを貰える事になった。

「じゃぁ、今いるかァ?」
「はっ…はい!あざっす!」
「待ってー!ネクタイまだ待ってー!」

名前は慌てて止めに入った。思ったより大きな声が出てしまい、荒北も黒田も福富達もピタリと止まった。

「ご、ごめん!違うよ、黒田くん!ネクタイはどうぞ貰って?だからそんな悲しい目しないで!ネクタイ取る前に、靖友くんと写真撮りたかったの!ただそれだけなの!本当にごめんね!黒田くん!」

それを聞いた黒田はホッとして上がっていた肩が下へストンとおりた。

携帯とデジカメを東堂に渡し、写真を撮ってもらった。場所は教室内と教室前の廊下。もう少しいい場所でとの声に、普段いた場所がいいと名前は言った。

「靖友くん、笑ってね。」
「アァ?アー…。」
「待ち受けにするから。」
「オゥ。」

数枚撮ったが、案の定東堂達から荒北笑えと文句を言われ、だったら何か面白い事しろと荒北は言い返した。すると思わぬ人がすっとかばんから何かを取り出した。

「見ろ!荒北!俺は強い!」

そう言うと、福富は皿回しを始めた。以前よりも遥かに上手くなっている福富は、軽快に回し続けた。

「ほら、靖友!寿一頑張ってんぞー!」
「いや、福チャン!マジうまいじゃん!すげェ!」

みんなが感心している所に先生の大きな声が響いた。

「コラァー!福富!廊下で皿回しするなー!危ないだろー!」
「大丈夫です!落ちても割れない皿です!」
「寿一、俺は?」
「強い!!」
「お皿も?」
「強い!!!」

全てを真顔で言い切る福富に、周りは大笑いをしてしまった。

「よし、写真撮れたぞ。」

いつの間にか撮っていたカメラと携帯を渡された。

「いい顔だったぞ。」
「ありがとう。…東堂くん、卒業おめでとう。」
「ふっ、ありがとう。苗字さんもおめでとう。」
「新開くんも福富くんも、卒業おめでとう。大学無事受かったら同じ大学なので、その時はまたよろしくね。」
「ああ。」
「会えるの楽しみにしてるぜ。」

バキュンポーズをする新開と名前の間に立った荒北は、振り返り新開に向かって、仕留めてんじゃねぇと舌を出した。

「靖友くん、卒業おめでとう。」
「ン。名前も。オメデトォ。」
「ありがとう。これからもずっと一緒にいようね。」
「ったりめェだヨ!オレに捕まったんだ、覚悟しろよォ?」
「靖友くんも、覚悟してね。」








初恋は実りますか?

最初で最後の恋だから実ったと思います。





fin



2021.05.10


monoGatari