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「やっと終わった。」

名前は、試験会場だった大学から出て最寄駅へとひとり歩いた。周りには、同じく試験が終わった学生が友人と話したり、誰かに電話したりとしている。そんな名前も先程大学を出る前にメールを1通送っていた。送った相手は、きっと寒い中待っているだろうと思うと、足早になってしまう。

「靖友くん。」
「おー、お疲れェ。」

数日前に全ての試験が終わっていた荒北は、名前と一緒に東京まで来ていた。

「いっぱい待たせちゃってごめんね。」
「べつにィ。オレが来てェって言ったんだし。」
「うん、ありがとう。心強かった。」
「お、って事は、出来たんかァ?」
「それとこれとは別です。」
「いや、出来なきゃやべーだろ。」

たぶん出来たと思うと名前が自信なさげに言えば、荒北は名前の頭に手を置いた。

「まぁ、今更焦ってもしょうがねェしな。帰るか。」
「うん。やっと受験勉強から解放されるー。」
「だなァ。」

二人は、箱根へと戻る電車へと乗り込んだ。車内は、満員とまではいかないが、そこそこな混み具合だ。

「靖友くん、学生寮に入るの?」
「いや、もう満室らしいから、近々アパート見に行く予定。オメェは?」
「私のとこも、女子寮みたいなのがあるけど、それだと男子禁制だから、靖友くん遊びに来ても泊まれないし。だから普通のアパート探す予定。」
「……お泊まりィ……。」
「……!違うよ!?ほら、会うならゆっくり会いたいし、日帰りだと大変だし、ホテルもお金かかっちゃうし!」
「…ホテル…。」
「違う!ビジネスホテルだからね!」

顔を赤くして慌てる名前に、とうとう荒北は吹き出して笑ってしまう。名前も車内だという事を思い出し、恥ずかしさに顔を両手で覆ってしまった。

「ハッ!分かってるっつーの。」

そう言ってまた荒北は笑ってしまった。

「そういや、1週間後には卒業だなァ。」
「うん、そうだね。」
「ハァー。卒業かァ。」

卒業式後に、合否発表があり、その後お互い受かっていれば、引っ越しやらで忙しくなるだろう。忙しい間は考えなくとも、大学が始まれば今まで常にそばにいた荒北がいない事に寂しさが込み上げてくるのではないかと思う。

「靖友くん…。」
「アァ?」

そんな事を今言ってどうなるのだろうか。どうにもならない事など分かってはいる。東京と静岡、会えない距離ではない。それも分かってはいる。不安だ寂しいだと、そんな事ばかり言って荒北に面倒くさいと思われたくない。

「………卒業式、泣く?」
「泣かねェわ!」
「分からないよ?自転車部の後輩とかに泣かれたら、貰い泣きしちゃうかもよ?」
「ねェーーーわ。」

そう言う荒北の顔は、自転車部の後輩を思い出しているのか、少し楽しそうな顔をしていた。その顔を荒北と同じ様に笑う名前へと向けると、荒北は小さな溜息をついた。

「なに?」
「オメェこそ泣くだろーなァ。」
「え、泣かないけど。」
「いや、ぜってェ泣く。」
「泣きません。」
「ハッ!今にも泣きそうだけどォ?」

そんな表情をしている気はまったく無い名前は、手のひらで自分の顔を触った。

「前にも言ったケドォ。オレはお前と離れる気なんて更々ねェかんな。まぁ、距離は離れっけどよ。」
「ははっ…。うん。」
「寂しくなったらすぐ連絡すりゃあいい。」
「うん。」
「会いにも行くしィ。」
「うん。」
「オメェも来い。」
「うん。いっぱいメールや電話しても面倒くさくない?」
「バァカ。オレがオメェに面倒くせェなんて思う日なんてくるわけねーんだよ。覚えとけ。」

耳を赤くしそっぽを向いた荒北の大きな手が名前の頭に乗ると、わしゃわしゃと撫でた。




2021.03.21


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