02
「ってェ…。」
ガンガンする頭を抑えながらも荒北はなんとか目を開ける。
「んあ?どこだァ?」
ぼっーと天井を見つめて、ここは自分の部屋ではない事に気が付き、勢いよく起き上がってしまった。
「うぁー頭いてェ…。」
周りを見れば、どこかのビジネスホテルのようだ。
なんとか起き上がると、テーブルにはメモが置いてあった。
起きたらここに内線しろよ。506 新開
「あぁー飲みすぎたか。」
時刻は朝7時を少し過ぎた時間なので、まだ新開も寝ているだろうと思い、まずは軽くシャワーを浴びに行った。
8時になり、メモに書かれた部屋に内線をかける。
『……あい。』
聞こえてきたのは、女の寝起きの声だった。
「はぁ?」
新開のヤツ、昨日の女と泊まってやがったのかと荒北は思った。
『……………ここ、どこ?』
しばらく無言だった名前がやっと口を開いた。
「アー、そこに新開いるんだろ?変わってくんねェ?」
『えっ?隼人くんいるの?』
「アァ?」
『ちょっと待ってて。』
顔から受話器を外したのか、声が遠のいた。
聞こえてくる音は、どこか開けたり閉めたりしながら新開を探す声のみ。しばらくして、受話器がガサガサとした。
『いないみたい。メモを見つけた。』
内容を聞くと同じで、部屋番号が荒北の部屋だった。
「あぁ?どうなってんダァ?」
『分からないけど、たぶん酔いつぶれた私達をここに泊まらせてくれたんだと思う。』
「アァー。新開に連絡してみっからァ。オメェ今起きたんだろ?1時間後に下のロビーで。」
そう言って電話を切り、荒北はすぐに新開に電話をした。
『おはよう、靖友。』
「おはようじゃねェよ!」
『名前ちゃんに連絡したか?』
「てっきりオメェもアイツと同じ部屋いんのかと思ったよ。」
『はははっ、オレと彼女はそんな関係じゃないって昨日散々言ったじゃねぇか。』
「覚えてねェーよ。」
『そうだ、朝メシ付きにしたから二人でしっかり食ってこいよ。じゃ、俺これから出かけっから。またな。』
「ッオイ!」
仕方ないと思い名前と約束した1時間後ロビーに向かった。
「遅れてごめん!」
そう走ってきた名前が昨日と同じ女だとは気が付かなかった。明らかに怪訝そうな顔をした荒北に
「あの、苗字です。」
「……?」
荒北が分からないという顔をしていると名前は掛けていた眼鏡を外した。
「名前だけど…。」
「おぉ…お前、メガネかけると随分違ェな。」
名前は、ムスッとした顔でまた眼鏡をかけた。
「新開が朝メシ付きにしたみてぇだから行くぞ。」
そう言って、レストランに入った。
荒北も名前も和定食にし、会話もなく黙々と食べている。
先に食べ終わった荒北は、食べている名前をしばらく見ていた。なんてことの無いこの朝ご飯を、名前は美味しそうに食べている。この姿、姿勢、どこかで見たようなと思っても中々思い出せない。
「そんなに見られると食べにくいんだけど。」
その言葉で思い出した。
「あぁ!お前、学食にいたな!」
「はぁ?同じ大学なんだから、そりゃいるでしょ。」
何言ってるんだという顔で名前は荒北を見る。
「ちっげェーよ!お前、よくオレの前とか近くに座って美味しそうに食ってたの思い出したわ!そんで、同じ事言われたァ。」
荒北がそう言うと、突然名前は顔を真っ赤にした。
「あぁ?どうした?」
「やっと思い出したんだ。」
「んだヨ!あん時の女か。」
大学時代、荒北が学食にいると、よく名前がすぐ近くに座っていた。分厚い眼鏡をかけ、髪も今よりは短く、派手さはまったくなかったが、なぜ覚えていたかと言うと、食べる時にいつも姿勢良く、そして美味しそうな顔をしていたからだ。かと言って、決して名前に惹かれた訳ではない。ただそう思っただけである。
名前はごちそうさまとお箸を置くと、顔が赤いまま荒北を見る。
「あの、印象は悪いとは思う。それは自覚してるんだけど…連絡先交換して欲しい…のですが…どうでしょう。」
荒北は驚いた。
「なんでェ?」
「なんでって…。」
「オレと連絡したっていい事なんてねぇよ。」
「…荒北くんが言ういい事ってなに?」
そんなの決まっているではないかと荒北は思う。
「はっきり言っとくゲド、オレと連絡取り合ったって新開と付き合える訳じゃねぇからな。」
「…なんでそこで隼人くんの名前が出てくるのか分からない。」
「だァから、好きなんダロ?そのハヤトくんの事ォ。」
「荒北くんってバカなの?」
「アァ?」
「私と隼人くんは、ただ同じ会社で同期で同じ部署に配属された飲み友達なんだけど。」
どこまでシラを切るつもりだと荒北は思った。
「なに、その顔。私は荒北くんと連絡取り合いたいの。メールとかしたいの。あわよくば彼女になりたいと下心丸出しで隼人くんに頼んで荒北くん誘い出してもらったの。」
名前は一気に捲し立てた。それでもやはり荒北は、名前の言っている事を信じる事は出来なかった。
「ハッ、そこまで言うならお前と付き合ってやんよ。でも、オレはお前の事好きにはならない。」
「えっ。」
「オレは、女なんて信用しねぇから。どうせ、お前も色々言ってっけど、オレの中では新開狙いの女としか思えねェし。」
「…バカにすんな…最低。」
そう言うと、名前はバッグを持ち走って出て行ってしまった。荒北は言い過ぎたかとも思ったが、どうせ図星だったのだろと思うことにした。
2019.12.27