04
気が重いと思いながらも、2日後の夜に名前にメールを入れた。
『悪かった 荒北』
色々考えてみたが、結局送った言葉はそれだけだった。翌日の朝、名前から返信が届いた。
『寝てた。悪いと思うならご飯奢って。』
「はああああ?なんでメシ連れてかなきゃいけねェんだよ!」
メールを見ながら荒北は叫んだ。普段の荒北なら、謝ったし関係ないと返信はしないが、新開に言われた事を思い出し、仕方ないと返信した。
『何がいいんだよ』
『回らない寿司』
『無理』
『知ってる』
『ラーメン』
『待て』
『待たねえ』
『イタリアン』
『手を打った』
日にちと時間と場所も決まり、メールも終わった時、荒北は気が付いた。
「わりとメールしたナァ。」
ポンポンと単語のやり取りで、相手が女だと言うのに嫌な気分にはならなかった。
「男とメールしてるみてェだったな。」
時間を見ると、家を出なければいけない20分前まできていた。携帯をテーブルに置き、慌てて出勤の準備をして家を出た。
その日の夜、新開からメールがきた。
『やっとメールしたんだな』
うるせえと思いながら
『オメェにうるさく言われたからな』
『楽しめよ、靖友』
楽しむって何を楽しめばいいんだと思った。
「悪りィ、遅れた。」
仕事の打ち合わせが長引き、待ち合わせから20分過ぎた頃、荒北は待ち合わせ場所に着いた。
「普通先に連絡よこすと思うけど。」
「アァ?メールしたけどォ?」
「はぁ?きてない。」
二人で携帯を確認する。
「あっ…新開に送ってた…。」
その時名前の携帯が鳴った。
「…いま隼人くんから、荒北くんが遅れるってメールが届いた。」
「アー、マジで悪りィ…。」
名前はプッと笑った。
「いいよ、ちゃんと連絡入れてたんだし。お腹すいたから行こ。」
そう言って歩き出した名前に、荒北も後ろについて歩き出した。
着いたお店は、どの席も半個室のようになっており、他のお客同士の顔がどの席からも合わないような作りになっていた。
「よく来んのォ?」
「初めて。隼人くんにこの店おススメされた。」
「へぇ、新開もよく店知ってんなァ。」
料理も一品ずつの量は多くないが、そのお陰で色々な種類が食べれるようになっている。
「あっ、コレ食べたい。」
「いいんじゃナァイ。オレは、コレとコレェ。」
飲み物と料理を頼むと会話がいったん止まってしまった。
なんとなく気まずい空気の中、先に口を開いたのは荒北だった。
「あー、なんつーかァ、この前は悪かったな…。」
「そうだね、アレは酷いね。結構傷ついた。」
「マジ、悪かった。ごめん。」
まさか頭まで下げられるとは思っていなかった名前は驚いた。
「うん、わかった。もういいよ。」
慌てて名前はそう言った。
頭をあげた荒北に、少しだけ新開から話は聞いたと伝える。
「大学の時、何があったかまでは聞いてないけど、嫌な思いをしたってのは聞いたの。だから私も嫌な思いしたかもしれないけど、許してやってくれないかって。」
そう言うと名前は笑った。
「あー、うん。」
「はい、じゃぁこれでこないだの事はおしまい。今日は荒北くんの奢りだから、いっぱい食べていっぱい飲む!」
「今日は潰れんなヨ。」
「お互いにね。」
二人で運ばれてきたお酒を飲み、食べ始めた。
「ナァー、いつオレの事知ったのォ?」
「大学2年の夏前くらいかな。」
「ふーん。」
「自転車乗ってた。凄い早くてびっくりしたんだよね。高校の時もインターハイ出たんだってね。」
「あー、新開から聞いたんだ。」
「うん、まさか荒北くんと隼人くんが友達だったとは最近まで知らなかった。」
荒北の心がなんとなくだがモヤっとした。
「なんで新開の事名前で呼んでんの?」
そう、名前呼びだったのも勘違いした原因でもあった。
「入社当時、仕事を覚えるので精一杯だし、上司や先輩の名前も覚えないといけないしで、同期の人達の名前が全然覚えられなくて。何度か聞いてるうちに、いつの間にか隼人しか言わないから、それになっちゃったの。」
なんともどうでもいい理由だった。
「荒北くんも名前で呼ばれたい?靖友くんって。」
と名前はニヤリと笑った。
「っせ。なんだっていいヨ。」
「えっ?なんでもいいの?じゃぁ靖友くんって呼ぶよ?」
「好きにすればァ。」
「ねぇ、私の名前ちゃんと覚えてる?」
「…名前ダロ。」
ボッと名前の顔が赤く染まる。
「つか、名前呼んだだけで赤くなるってどーなんだよ。」
荒北がそう言うと、名前はキッと睨みながら
「忘れてない?私が荒北くんに好意を持ってる事。そりゃ好きな人に名前呼ばれれば照れるもんでしょ。」
そう言われ、荒北も急に恥ずかしくなり顔が赤くなるのを自分でも分かったが
「お前、また名前戻ってんじゃん。」
と誤魔化した。
「あぁ。私が靖友くんに好意を…。」
「2回言わなくてももう分かったつーの!酔ってんのかァ?」
「まだ酔ってない。」
「結構な量の食べて飲んだので、私も払う。」
「いらねェよ。」
「そういう訳には。」
「社会人3年目舐めんナ。」
「いや、私も同じだから。」
「うっせ。今日は大人しく奢られとけ。」
そう言うと荒北はさっさと会計を済ませた。
「ごちそうさまでした。」
「いいえー。」
「次は私が奢ります。」
「おー楽しみにしてんよ。」
「えっ?次もご飯行ってくれるの?」
そう聞かれる、荒北は無意識とはいえ楽しみにしてると言った自分に驚いた。
「おっ、おぉ。」
「よし!靖友くんは、まだ私の事信じないかもしれないけど、私は隼人くんじゃなくて靖友くん狙ってるって事信じてもらえるよう頑張るよー。」
「狙うって…もっと他の言い方あんダロ。」
2020.01.17