パワーバーはどこに
やっと部活だと、荒北は部室へと入ると、もうすでに室内練習を始めている後輩たちがチラホラいる。それを横目で見ながら、更衣室へと入った。
「靖友!大変だ!」
「アァ?どうしたァ?」
新開が深刻そうな顔ですがり付いてきた。
「俺の、俺の…!」
「チャリなんかされたのか?」
「パワーバーが消えたんだ!」
ひっくり返りそうになる体をなんとか踏ん張った。
「知らねェよ!テメェで全部食ったんだろ!」
「食べてないよ!朝練の時、スーパーの袋いっぱいに入れて、ロッカーの中に置いたはずなんだ。」
「じゃぁ、ロッカーにあるだろ。」
「それが無いから大変だって言ってるんだろ。」
新開は自分のロッカーを全開にして荒北へ見せた。
「隼人、その前にそのロッカーの中はなんだ。汚すぎるぞ。」
東堂は、新開のロッカーを見て顔を歪める。隣に立つ福富も、東堂の言葉に頷いた。
「んっとに、きったねェな。」
「靖友のロッカーよりはマシだと思うぜ。」
荒北はウインクをしながらバキュンポーズをとる新開に舌打ちをした。
「じゃー隣のロッカーにでも入れたんじゃねェの?」
「そうかなぁ。でも、勝手に開けるわけにもいかねぇし…。」
「隣、誰だっけェ?」
「右が泉田で左が黒田だな。」
泉田と黒田は、既に室内にてローラーを始めていた。荒北は、更衣室のドアから顔を出し、泉田と黒田に声をかけた。
「オメーらのロッカーに新開のパワーバー袋入ってたかァ?」
「いえ、ありません。」
「俺もっす。」
「おー、わかったァ。ローラー中悪かったなァ。」
更衣室へと顔を戻し、無いってよ、と新開に伝えると、膝から崩れ落ちた。
「え、そんなにィ?」
「だって、だってな、色んな味を用意したんだ。これで3日はもつかなって。楽しみにしてたんだ。」
「むっ、新開。気持ちは分かるぞ。」
「え、福チャン…?」
「俺も、楽しみにしていたアップルパイが売れ切れていると悲しい。」
「フク………俺はなんて声をかけていいか、分からんよ。」
東堂は呆れたように言うと、珍しく隣の荒北は頷いていた。とにかく、このままでは練習出来ないと荒北は思い、面倒ではあるが新開のパワーバーを探す事にした。
「よし、新開、マジで面倒くせェけど、一緒にさがしてやんヨ!」
「靖友!」
「で、まず朝からの行動を教えろ。」
新開は、朝から順番にひとつずつ思い出していった。
「朝は、起きてから顔洗って、歯磨きして…。」
「隼人、そこは早送りで頼む。」
「そぉネ、それいらない。」
「すまねえ。じゃぁ、寮出た後からの事だな。」
部室へ着くと、すでに後輩が着替えていたらしい。混んでたから、少し空くまで隅のベンチに座って、パワーバーを1本食べた。
「ちなみに、ストロベリー味だぜ。」
「どーでもイイ。」
やっと空いたから、ロッカーを開け着替え終わって、荷物をロッカーに入れようとしたら、結構パンパンになり、パワーバーが折れないか心配だったと言う。
「なぁ、そんなパンパンなら、ロッカー開いちまって落ちたんじゃねェかァ?」
「いや、昼休みに1本取りに来たんだけど、その時はちゃんとロッカーの中にあったんだぜ。」
「じゃぁ、その後って事だなァ。」
荒北は考えた。誰かが盗むとしたら、部外者だろうか。部内の者は、盗むような真似は絶対にしないだろう。盗まれた物が、パワーバーであろうと、盗難には間違いなく、この王者箱学の名を汚す事になる。
「何本入ってたんだヨ?」
「分かんねーけど、30本位だと思う。」
「なぬ!30本をたった3日で食べ終えるつもりだったのか?」
「むっ、新開。それは食べ過ぎだ。」
思わぬ言葉で新開は叱られ、いやぁと苦笑いをして誤魔化した。
「盗まれたのかなぁ。って事は、誰かが忍び込んだって事か?」
「うむ。窓ガラスや鍵は壊されていないところからすると、部室のドアの鍵が開いたままだったのだろうか。」
「そうかもしれない。今日、誰が一番最初に来たんだ?」
荒北は、三人が自分と同じように部外者犯人説を考えている、部内の人間を疑う事をしないという事に、少し嬉しく思った。
「でもよ、そしたらオメェのパワーバーだけが狙われた訳じゃねェかもしれねーぞ?一度全員ロッカー確認させた方がいいかもよ、福チャン。」
「確かにそうだな。」
福富は部内の者全員を集め、ロッカーの確認をする様にと伝えた。そこに、日直で少し遅れたマネージャーの名前がやってきた。
「あれ?練習は?」
室内練習場に誰もいない事に何かあったのかと思う。キョロキョロと周りを見ても、誰一人としていない。けれども、ガヤガヤとした声は聞こえてきたので、それが聞こえる更衣室の方へと向かった。
「何かあったのー?」
更衣室前で名前が聞くと、すぐにドアが開き1年生の真波が出てきた。
「お疲れ様、何かあった?」
「名前さーん、なんかもう俺息が詰まりそう。」
真波は、ドアを全開にした。着替えではないようで、何があったのかと中へと入ると、部員9割が更衣室の中で密集している。
「なにこれ!むさ苦しい!」
「おお、名前。」
「尽八、一体どうしたの?」
「名前ー!」
泣きそうな顔で新開が近付いてきた。隣には、考え込む荒北と、いつも通りの福富が立っている。
「名前、みんなにロッカーの中身を確認してもらっている。お前も何か盗られてないか確認して欲しい。」
「え?それって…寿一、まさか泥棒が入ったの?」
「いや、まだ分かんねェんだけど。とりあえず、オメェ一応女だし、もしかしたらなんか盗られてっかもしんねェから。」
「おい、靖友。一応って…どう言う事よ。」
名前は、ロッカーを開けて中をひと通り確認をした。
「私は大丈夫みたい。みんなは?」
「新開以外は盗られてないみたいなんだが。」
「隼人、あんた何盗られたの?部品?サイジャ?何?」
「パワーバーだ!袋いっぱいに入ったパワーバーが全部無くなったんだ!」
「部内のヤツじゃねェとは思うから、そうなると部…。」
「上。」
「ハァ?」
「上だってば。」
名前は、ロッカーの上を指差した。
「昼休み、隼人言ってたじゃん。ロッカー入れたら、折れそうだって。だから、ロッカーの上に置いといたらって。そこは見たの?」
一瞬にして静まり返った更衣室に、名前のため息だけが響いた。
「オイ、新開。見てみろヨ。」
「お、おお。」
パイプ椅子をロッカー前に置き、上に乗って覗き込む。
「あった!あったぜ!みんな!」
「良かったですね!新開さん!」
泉田以外の部員はなんとも冷めた目線を新開に送ると、無言で更衣室を出て行った。
「みんな…冷たいぜ。泉田、食うか?」
2020.07.15