割られたカチューシャ
「ぬおおおお!」
「うっせェ!」
「おおお俺のカチューシャがぁ!」
ロッカーの下に落ちているのは、東堂のお気に入りベスト3に入るカチューシャだ。
「尽八どうした!」
「は…隼人…俺のお気に入りのカチューシャが…真っ二つに割れているのだ…。」
「なんだって!誰がそんな事を!」
「たまたま踏んじまったんダロ。」
「だとしてもだ!一言くらい謝罪があるべきだろう!」
「アー、そうね。ほれ、貸してみろ。オレ接着剤持ってっからァ。」
荒北は東堂から割れたカチューシャを奪い、鞄の中から接着剤を取り出すと器用にくっつけた。
「オラ、とりあえずこのまま置いとけ。」
「うむ。割れた跡は残ってしまうが、仕方がないか。荒北、ありがとうな。」
「どーいたしましてェ。」
「なんだ、靖友。優しいな。」
「べェつにィ。」
そのやりとりを、なんとも言えない顔で福富は見ている。せっかくおさまったこの騒動を、自分の一言で壊してもいいのだろうかと。
「ねぇーロッカー使いたいんだけど、入ってもいい?」
更衣室のドアの外からマネージャーの名前の声がした。
「大丈夫だぞ。」
名前はドアを開けると、またこの四人かと笑っている。
「名前、聞いてくれて!誰だか知らんが、俺の大事なカチューシャを割ってんだが、珍しく荒北が俺に優しくてな、接着剤で…」
「え、それ割ったの、靖友じゃん。さっき踏んでパキッてやったよね?寿一?」
一斉に荒北へと目を向けるが、もうそこに荒北はいなかった。更衣室の外では、黒田を連れて外周へと逃げようと慌てる荒北の声が響いている。
「あああーらああーきいいーたあああああ!!!」
逃さないと言わんばかりの速さで、東堂は荒北を追いかけて行った。
「ははは、なんだ靖友が犯人か。」
「うん。だって寿一と私が見てたもん。ね。」
「言っていいものか、分からなかったが、やはりわざとでなくても謝るべきだな、荒北は。」
これから東堂の長い長いお叱りを受ける荒北を想像して、思わず名前は笑ってしまう。
「自業自得だね。」
2020.07.22