してるか、してないか


「大変だ!靖友!」
「今日はなんだヨ。」
「おめさん、もうキスは済んでるか?」
「は、アァァァ?」
「今日女子が話してたんだ。ファーストキスは、18歳までに済ませてる子が全体の半分以上を占めてるらしい。」
「へェ。そりゃ大変だナァ。」

またどうでもいい話を持ってきたなと荒北は適当な返事を返した。

「マズいと思わないか!?」
「何を騒いでいる。」

福富と東堂が更衣室へと入ってきた。

「寿一、尽八!あのな、さっき女子がな…。」

新開は、荒北に話した事を、福富と東堂に話した。

「なあ、二人ともキスした事あるか?」
「なななななにを言う!」
「え、尽八ないのか?」
「おおお俺は、そんな事をしてしまったら、他のファンが悲しむのでな。だから決してする相手がいない訳ではなく、ファンの為にしないでいてあげているのだ!」
「ッゼー。」
「うざくはない!」
「寿一は?あるか?」
「テメェ、福チャンにンな事聞いてんじゃねェよ!」

そう言いながらも荒北は、福富の返答が気になるようでチラチラと見ている。

「ある。」
「………ェ…あんの?」
「ああ。幼稚園の頃だが。母がよく言っていた。同じクラスの…。」
「幼稚園かヨ!それは入んねェな。」
「むっ、そうか。」
「半分以上ってのは嘘なのではないか?していない奴の方が多いだろう。」
「そうなのかなぁ。」

ほんっとうにどうでもいい会話だ。そんな会話中、2年の黒田が更衣室へと入ってきた。

「お疲れ様っス。」
「お疲れ。なぁ、黒田はあるのか?」
「はっ?なにがッスか?」
「ハッ!クソエリートだもんなァ。あんじゃねェの?」
「黒田、お前は、その…女子と…キスをした事あるのか?俺はファンが悲しむからしてないんだが。」
「………なんっすか、急に。」

いまの黒田の目には、尊敬をする先輩達という眼差しは皆無である。またアホな話をしているな、面倒な時に来てしまったとすら思っていた。

「いや、18歳までに済ませる奴が半分以上らしくてな。俺たち、誰もした事なかったんだよ。」
「オイ!新開!オレらの事までバラしてんじゃねェよ。」
「へぇ、荒北さんした事ないんっすねぇ。」
「チッ!ほらな、コイツのこの勝ち誇ったような態度がウゼー!」
「で、黒田はあるのか?」
「ありますよ。初めてが中2の時っす。」
「ななななんとハレンチな!」
「いや、東堂さん、ハレンチって。」
「ヤバいな。」
「ヤバくねェから。安心しろ。新開。」

荒北も自分で言っててよく分からないが、とりあえずもうこの話を続けるつもりはないようだ。

「お疲れ様ー!更衣室入りたいんだけどー。」

更衣室のドアがノックされ、ドアの外から名前の声がした。

「大丈夫だぞ。」

東堂の声が聞こえ中に入った。

「お疲れ様ー。」
「お疲れッス。」
「ユキちゃん、なに、捕まってんの?」
「はい。なんかキスをした事あるかって。」
「はぁ?なんつー話してんのよ。アホらし。」

名前は、自分のロッカーの上にある備品の箱を下ろし、中を探している。

「なぁ、名前はあるのか?」
「なに、新開はあるの?」
「いや、俺も、寿一も靖友も尽八もまだなんだ。名前もだよな?」
「俺は、ファンの子な悲しむから!」
「そんなの、なんであんた達に言わなきゃいけないのよ。」

名前はさらさら答える気など無いようだ。

「むっ、あるのか?幼稚園の頃はなしだそうだ。」
「寿一まで…。どっちでもいいでしょ?」
「なんだヨ、オメェもねェんだろ?」
「ないように見える?」
「エッ!あんのかヨ!?」
「あるように見える?」

あったと、名前は目当ての物を見つけると、備品の箱を片付け、さっさと更衣室から出て行ってしまった。残された5人は、心の中にモヤモヤしたものが残っている。

「……… 名前さん、どっちなんっすかね…。」
「ねェーだろ。」
「でも… 名前さんって、美人っすよね。」
「ハァ?オメェ、目大丈夫かァ?」
「いや、まあもちろん俺の方が勝るが、名前もなかなかの美人に入るな。」
「えーマジかぁ。名前した事あんのかなぁ?なんか、なんだろ。なんか、やだなぁ。もしかして俺らが知らないだけで、彼氏とかいるのかなぁ。」
「むっ、それなら何故相手の男は挨拶に来ないんだ。」
「いや、それ父親目線になってっからァ。」

当の名前は、彼氏もいなければキスは勿論手すら繋いだ事などない。けれども、馬鹿にされてたまるかと、アホ共には今後も絶対に教えるつもりはなかった。




2020.08.28


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