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隣で暑いと連呼する友達名前は、ハンディ扇風機を顔へと向けている。
「人多すぎて、空調が意味なしてあらへん!」
「凄いね、さっき団扇持ってる人見たよ。」
「アイドルかっちゅーねん。」
「ふふっ、お祭りみたいで楽しみ。」
夏休み、稲荷崎はインハイ前に調整を兼ねて練習試合をする事になっていた。本来なら稲荷崎高校の体育館で行う予定だったが、2日前の大雨でまさかの雨漏りが発生。翌日から修復工事が入る事になった為、工事が終わるまでの1週間、近所の市民体育館を借りての練習となった。市民体育館なので、観覧席もあり誰でも自由に入れるのだが、普段の練習の際は、迷惑がかからない様にとほとんどの者たちは見学を控えている。けれども、練習試合となれば別の様で。観覧席は半分以上埋まっている。名前も昨日侑から連絡があった。
『明日練習試合やねん。そんでな、名前、どうや?』
「どうや、って?」
『あんなぁ、えっとぉ…どおかな思て…。』
「あ、うん。楽しいといいね。」
『ちゃう!いや、ちゃう事もないねんけど………来んか?』
「練習試合?」
『おん。いやな、サムがな!名前来たら嬉しいなあ言うとって!』
「治が?」
『お、おん。せやねん。………どうや?無理にとは言わへんけど…。』
本当に嘘が下手だなと思わず笑ってしまった名前に、侑は何度も「治がな」と繰り返した。行ってもいいのなら、友達名前と行くと言えば、侑もほっとした声色に変わった。
観覧席へと続く階段に足を掛けたところで、休憩に入った稲荷崎が体育館から出てきた。試合前という事で、話しかけたりはしないものの、彼らを囲うように女子達は眺めている。
「チッ、腹立つわ。アイツらに見つからんうちに行こ。」
友達名前がそう言い名前の手を引いたところで、侑の大きな声が響いた。
「名前!!」
名前の隣では、友達名前が片手を額に乗せ大きなため息を吐いた。そんな友達名前に苦笑いしつつ振り向けば、侑は両手で大きく手を振っている。その隣の治も片手を上げている。
「いま休憩やねん!試合、よー見とけや!カッコエエ侑くん見せたるわ!」
にこにこ笑う侑に、名前もにこりと笑って「楽しんでね」と隣に立つ友達名前にも聞き取れない程の小さな声で伝えるが、侑と治にはそれが分かったのか、二人は名前に向かって頷くとピースをして答えた。
練習試合は、稲荷崎の圧勝で終わった。途中何度か侑と治の言い合いがあったりもしたが、とても楽しそうだった。観客席から出て下のロビーを見れば、稲荷崎の生徒や一般のお客さんがメンバー達に声をかけている。
「うーわ、アイツらの天狗になった鼻、へし折りたいわ。」
「アランくんも凄かったね。」
「せや!アランくんが一番かっこよかったわ!」
「……角名くんが一番だったくせに。」
「名前!!!」
一瞬で顔を真っ赤にした友達名前は、トイレに行くと言ってバタバタと逃げてしまった。名前は待つ間、次から次へとひっきりなしに声をかけられ続けている双子達を見て、本当に人気者なんだと、なんとも言えない感情の中にいた。
「なぁ、アンタ、始まる前侑くんと治くんに声掛けられとったよな?」
突然掛けられた声に、名前はピクリと肩を揺らした。見れば稲荷崎高校の制服を着ている女子が二人立っている。
「まさか彼女とかやないよな?」
「あ、えっと…彼女って、その侑や治の…って事ですか…?」
「せや。どっちかの彼女なん?もう一人の子も。」
「違い…。」
「ちゃうわ!」
トイレから戻った友達名前が腰に手を当て、心底嫌そうな顔で答えた。それを聞いた稲荷崎の女子生徒は、疑うような目を向けている。
「なんなん?何か言いたい事あんならはっきり言い。」
友達名前は名前の前へと一歩踏み出し、イラついたような、圧のかかった視線を向けた。その表情は、侑のイラついた時の表情にそっくりである。
「どーゆう関係、なん?」
「それ、アンタらに答えなあかん理由はあるん?」
「それは…気になるし…。」
「友達や。以上。」
「ちょ、友達って…。」
中学生の頃にも、何度か似たような事はあった。双子の名前に対する距離感や態度は、双子を好きだと言う女子達には気に入らなかった。名前は、どちらが好きなのか、どちらかと付き合っているのではないか、違うのであれば距離を取れ、と言われた。その度に友達名前は静かな怒りで、双子に言えと蹴散らした。
友達名前の舌打ちが聞こえた時だった。これは本気の舌打ちだと思った名前は、慌てて友達名前の腕を引き、帰ろうと伝えた。
「何しとん?」
「あ…治くん…。」
固まりから抜け出した治は、困った顔の名前、イラついた友達名前、稲荷崎の女子生徒に目を向けて、もう一度何をしているのかと聞いた。
「いや、あんな…。」
「治、マジで迷わ…」
「何でもないよ。」
友達名前が治に当たり散らかりそうになった所を名前は遮った。
「コイツのこの顔、何もないわけないやろ。」
「本当に大した事じゃないの。侑と治は学校でも人気者なんだよって話を聞いてただけ。人気者が突然声掛けてきたら、びっくりしちゃうよ。色々教えてくれてありがとう。」
名前が稲荷崎の女子生徒にそうお礼をつたえれば、俯きそのまま走って去っていった。
「治も、ほら戻って。侑も治も、みんなかっこよかったよ。練習頑張ってね。」
納得のいかない治も、名前にそう言われニコリとされれば、それ以上何も言えず大きなため息をひとつ吐いて戻っていった。
隣でまだイラついている友達名前に、帰ろうと声を掛けて市民体育館を出た。
「ごめんね。」
「はああ?名前が謝る事はひとつもない!」
「うん、でも…帰りに角名くんに声掛けられなくてごめん。」
「名前!!」
またも顔を真っ赤にさせる友達名前をかわいいなと名前は思った。
2023.10.05