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部活休みの日、侑と治は角名や銀島と駅前のスポーツショップへと来ていた。必要な物を買い揃えれば、いつもの様にそのままファストフード店へと入る。バレーの話やくだらない話をしていれば、あっという間に時間は経ってしまう。辺りが暗くなってきた頃、そろそろ帰るかと四人揃ってお店を出たところ、名前が向かいのビルから出てきた。
「名前やん。」
侑の声に名前が顔を上げた。隣にいる治も何しているのかと聞けば、名前はちょっとと言う。それに対して、ちょっととはなんだとしつこく侑は聞く。しつこいと名前が言えば、侑はこんな時間にひとりで危ないとむっとした表情を見せた。
「まだ7時だよ。」
「7時半過ぎとるわ!」
「そんなに変わらないし。」
「名前!」
「…しょうがないでしょ。習い事だったんだもん。」
「は?習い事?なんのや。」
「なんでもいいでしょ。」
「なんや!反抗期か!」
目の前で言い争う名前と侑を横目に、角名は名前が出てきたビルへと目を向けて、各階の看板を確認する。麻雀、ボクシングジム、金融関係、社交ダンス。最初の三つは論外として、社交ダンスもピンとはこなかった。
「ボクシング…?」
角名の呟きに、まさか名前が反応するとは思わず、言った角名も驚いた。
「え、ボクシングなの?」
「角名くん…。」
「はあ?ボクシング?!」
侑も治も銀島も頭にハテナマークを付けた表情をしている。銀島がボクシングとはなんだったかと思わず考えてしまう程に名前とはかけ離れているように思えた。そんな中、我に返った治が名前の肩を掴んだ。
「名前、ばあちゃんやじいちゃんは知っとんのか?ボクシングて、顔変形すんやで。」
「治、肩痛い。……ボクシングジムに通ってるのは本当。でも私の目的はボクシングじゃないの。」
女性が男性に力では敵わない事は分かっている。今まであまりそのことに関して気にした事は無かった。名前にとっては当たり前だと思っていたからだ。
一年生の3月頃だった。もともとお嬢様学校としてそれなりに有名な名前が通っている学校だが、そこに通う生徒を狙う不審者が増えた。学校でも勿論自分の身を守る為の護身術は授業で教わるのだが、正直なところ、それが本当に役に立つ程のものかと聞かれれば、実践には向いている様には思えない。そんな風に思っていたところ、たまたま友達に護身術を教えてくれる場所があると誘われ行ってみたら、見事にハマってしまったのである。
「護身術?」
「うん。」
ジム内の大きな男相手にするりと抜け出す、その感覚にハマってしまった。護身術なので、あくまでも習うのは危険から逃げる方法であり、相手を倒す事ではない。その為、力が弱い女性でも関係はない。
「いつから始めたん?」
「少し前。週3回。12回1ヶ月コースで、今日が9回目。」
「マジか。知らんかったし気づかんかった。」
「言ってないしね。今日はたまたま遅くなったけど、いつもはもっと早く終わるの。」
「へぇ。12回なら、あと3回で終わりなの?」
「うん。今度は他のコースやってみようかとも思ってる。なんか体動かすの、楽しいかも。」
そう言って名前が小さな笑みを漏らせば、本音ではそんなもの必要ないだろう、他のコースとはどんなやつだと思っていても、双子は何も言えなくなる。侑は大きなため息をひとつ吐いた。
「遅くなる時は、俺かサムか友達名前に連絡しい。」
「過保護過ぎだと思うんだけど。」
「うっさいわ。とにかく!今日みたいに遅い時は、連絡すんやで!」
仕方がないと名前も頷けば、侑も納得したのか帰るかと言った。
帰りのバスの中、名前は隣に座る治に小声で侑は過保護過ぎではないかと言った。
「まぁ、せやなぁ。そこは諦めえ。」
「……強くなる為に頑張ってるんだけどなぁ…。」
「ん?なんや?」
「なんでもない。」
「腹減ったわ。」
「さっきまで食べてたんじゃないの?」
「……腹、減った。」
2023.08.26