06
定期的に通っているクリニックでのカウンセリングも終わり、名前は夏休みの課題に必要な資料を探しに大きな本屋へと来た。この辺では、種類が豊富で、大体の欲しい本は揃うのだが、広くて探すのも大変だ。
ひと通り店内を回ってみたが、探している本が見当たらない。仕方がなく、もう一度本棚をよく見ながら歩いていれば、目当ての本が見つかり手を伸ばした。ところが手が届かずよろけた所に、すぐ側に立っていた人の背中へとぶつかってしまった。
「すみません。」
名前は、頭を下げすぐに謝ると、ぶつかった人はいいえと言って振り返った。
「あれ?名前、さん?」
名前を呼ばれて名前は顔を上げれば、そこには制服を来て大きなスポーツバッグを持った角名が立っていた。
「角名くん。」
「こんにちは。」
「こんにちは。ぶつかってごめんなさい。」
「大丈夫、あんなのぶつかったうちに入らないよ。」
そういって笑った角名に、名前はホッとした。届かなかった本を角名に取ってもらい、それを名前に渡した。ひとりなのかと角名に聞かれた名前は頷き、名前も角名に同じ質問をすれば、これから部活でその前にちょっと寄ったと言われた。
「角名くんは、何部?」
「双子から聞いてない?同じバレー部だよ。」
だからよく双子と一緒にいたのかと、名前は納得した。
「侑と治は、部活頑張ってる?」
「うん。凄いよ、あの二人。それでよく喧嘩もしてる。」
ほら、と角名は、携帯に1枚の画像を表示させ、それを名前に見せて笑った。その画像には、双子が掴み合ってる姿が写っていた。
「これは、昨日の。」
「………久しぶりに二人のこういう姿に見た。そっか。喧嘩、してるんだ。」
表情は変わらないが、その声は少し嬉しそうに角名には感じた。
「双子からそーゆう話聞かないの?」
「え、えっと…うん。バレーの話はしないかな。侑にも治にも気を遣わせてて…。」
これは聞いてはいけない事だったのでは、と角名は思ったが、食い入るように写真を見る名前が少し気になり聞いてみた。
「あいつらのバレーやってる姿、気になる?」
「えっ?」
「もしも双子に部活の話聞けないなら、時々写真送る?勘違いだったらごめん、忘れてくれていいから。」
角名は、理由は分からないが、双子だけではなく名前もかなり双子に気を遣っているように感じた。でも角名は、名前の事を知らない。だから、もしかしたらその考えは間違っているかもしれない。
「あの、えっと…いいの?」
名前の言葉に角名は、もちろんと頷いた。
「出来ればバレーのじゃなくて、こういう日常の姿を…。」
「バレーじゃなくていいの?」
バレーの話は、双子から話を聞きたいと名前は言った。
「ほんと、角名くんが手が空いてて暇だなって時でいいので…いいでしょうか。」
「ふっ。もちろん、いいよ。」
「まだ仲良くなってないのに、こんな事お願いしてごめんなさい。」
「じゃあ、これを機に仲良くなればいいでしょ。それに、こーゆー時、ごめんじゃなくて?」
「ありがとう。角名くんは、侑と治と同じ事言ってくれる。」
名前と角名は、メッセージアプリのIDを交換し、すぐに角名が口の中にパンパンに食べ物を詰めた双子の写真を送ると、この顔よく見ると名前は言った。
「見るだけで写真なかったから嬉しい。」
「ははっ、いっぱいあるからまた送るよ。」
「ありがとう。」
帰りがけ角名に少しだけ待ってもらい、名前は急いで2件隣のスーパーに入ると、少ししてスーパーの袋を持って出てきた。中には一口サイズのゼリーが入った大袋をふたつ入っている。
「これ、あのお礼を兼ねた差し入れです。冷蔵のところから持ってきたから、冷たいと思う。荷物になっちゃうけど、どうぞ。」
「わざわざありがとう。みんなで頂くね。」
そうして、名前は家へ、角名は学校へと向かった。
夕方、名前のメッセージアプリに、何枚かの写真が届いた。
1枚目の写真は、二人が目を丸くしてポカンと口を開けた顔だった。
ー 名前さんに貰った差し入れを渡した時の双子
「なんそれ、差し入れ?」
「うん。名前さんから。」
「………は?」
「………は?」
「さすが、同じタイミング。」
2枚目の写真は、アップでブレてはいるが何か喚いている顔半分の侑と眉を吊り上げているピントの合った治。
ー 本屋で会ってお喋りしてID交換したと伝えた後の双子
「なんで角名が名前の連絡先知っとんのやあ!」
「だから、来る時本屋で…」
「ニヤニヤすんな!」
3枚目は動画で、納得していないながらも、差し入れのゼリーをパクパク食べる双子と部員。
ー ほんと面白い双子
「名前からの差し入れやから食う!食うけども!腹立つわ!」
「角名は、食わんでええ。あ、北さん、名前からの差し入れです。」
「ありがとう。治、名前って誰や?」
「隣の家の子です。」
「??…そか。」
2022.10.30