05




友達名前が初めて名前と出会ったのは、名前が引っ越してきた小学校4年生の春休みだった。父親が所謂転勤族で引っ越しが多かったが、名前の事を考え、母方の祖父母の家に母親と名前は住む事となった。
そんなある日、友達名前は、徒歩10分程のいとこの双子と一緒に通っていたバレーボールクラブの帰り、母親が双子の家にいた為、そのまま双子と一緒に帰った。

「あ、名前。」

治が隣の家の花壇に水やりをしている子に声をかけると、その子と隣に立つ母親が振り返り、双子を見て「おかえり」と笑った笑顔が余りにも可愛くて衝撃を受けた。すぐに友達になりたいと思った友達名前は、その場で声を掛け、それから春休み中時間があれば名前の家へと遊びに行った。名前も転校前とあり、女の子の友達が出来た事に喜んでいた。


「名前と同じクラスになりたいなぁ。」
「はぁ?名前と同じクラスになるんは、俺や!」
「あほか、ツムや友達名前と同じクラスやったら喧しくてたまらんやろが。なあ、名前。」
「治かて、喧しいわ!」

明るく優しく面白い三人のお陰で、名前は楽しい小学校生活を送っていた。


そのまま中学校にも上がり、双子も友達名前も、男子バレー部と女子バレー部へと入った。名前は、あまり運動が得意ではなかったので、園芸部へと入った。園芸部は、運動部に比べて活動時間は短いが、ほぼ毎日のように名前は、友達名前の部活が終わるまで待ち一緒に帰った。部活が終わる頃になると、体育館の入り口からひょこりと顔半分程を覗かせる名前が可愛くて、友達名前はその姿を見るたびに笑ってしまった。

「もうすぐGWやな。」
「そうだね。友達名前は、毎日部活?」
「うん、女バレは日曜以外は毎日午前中が部活。名前は?園芸部あるん?」
「うん、4日が私の当番だから午前中学校行くよ。時間合わせて待ってるから、その日は一緒に帰ろ。」
「ええよー!他の日も午後から遊ぼうや。」
「うん!」
「フッフ、男バレは午後から部活やから、双子に邪魔されることもない。」

そう話していたが、4日名前は学校に来なかった。体育館の入り口から名前が顔を出してくるのだが、それがなく友達名前は、おかしいと思いながらも雨が降っているからとも思い、部活が終わり帰り支度をしていた。すると体育館の外で友達名前を呼び叫ぶ双子の声が聞こえ、喧しいなと苛立ちながら体育館を出るとびしょ濡れの双子が立っていた。

「遅いわ!ボケがあ!」
「はあ?なんなん?!」
「ええから、はよ来いや!」

治は友達名前の荷物を奪うように取り、侑は友達名前の腕を掴んで走り出した。何か大変な事が起きていると思ったのは、その時の双子の顔があまりにも怖かったからだ。

「どっ、どこ行くん?」
「名前が…名前のおかんが!!」



名前の母親も出掛ける為、学校に向かう名前と一緒にバス停でバスを待っている時、脇見運転の車に轢かれ亡くなった。
病院には、名前の他に祖父母、双子の母親、友達名前の母親がいた。名前は泣いてはいなかったが、真っ白い顔色でただ一点を見つめていた。たまらず友達名前は、名前を抱きしめた。

「私のせいだ。」

その声に震えはなかったが、あまりにも小さ過ぎて、抱きしめている友達名前にも僅かに聞こえた程度だった。

それからしばらく名前は学校を休んだ。双子も友達名前も休んでいる間、学校からの手紙や宿題プリントを口実に、毎日順番に顔を出した。だが、名前はそれに殆ど反応を見せる事はなかった。

1週間後、学校に出てきた名前は、いつも通りだった。事故があった事が嘘だったかの様に、名前は普段通りだった。そんな名前を見てクラスのみんなも、ほっとしていた様に思える。
それから3日後だった。
体育の時間は、隣のクラスと合同なのだが、天気も悪く男子と女子が体育館を半分に分け、バスケットをする事になった。名前の隣のクラスには侑がいる。

「名前!俺のボール捌き、よう見とき!」
「無理だよ。こっちもバスケやるし。」
「俺のバスケやで!貴重やん!」
「はいはい、頑張って。」
「名前がつめたい!」
「指、気をつけて。」
「名前、優しい!」

そう叫ぶと侑を周りはいつもの喧しさと笑っていた。もちろん名前も一緒に笑っていたが、侑にはそれが少し不自然にも感じた。だが、あんな事があってまだ数週間しか経っていないのだから当たり前だ、と思うようにした。

「名前!」

女子の声に侑は反応した。隣のコートを見れば、名前にパスがまわったようだった。

「名前?」

キュッキュと鳴る足音が一斉に止まり、名前の側にいる女子が声をかける。名前は、手に持つボールを見つめたまま小さく震えていた。

「大丈夫?名前?」
「苗字さん?」

侑は、慌てて男女のコートの間に張ってあるネットをくぐり名前の肩を掴んだ。

「おい、名前!どうした!」

侑は名前が両手で持つボールを奪おうと手に取るが、まるで名前の両手とボールが接着剤でくっ付いているかの様に、まったく動かない。こんな力が名前にあるとは思えなかった。

「名前!ボール離せ!」
「苗字さん!聞こえてる?」

侑と先生が大きな声で名前に話しかける。

「名前!俺を見ろ!侑や!大丈夫やからこっち見ろ!」

ボールから手を離した侑は、名前の両頬に手を置くと俯いた名前の顔を上げ、侑は名前と目線を合わせる為に少し屈んだ。

「名前!わかるか?」
「あ、あ、つむ。」
「せや、侑や。」
「あつ、む…ど、しよ…おかあさん、が…」
「名前!」
「おかあさん…わたしのせいで、しんだ…。」

名前の手からボールが離れると同時に名前は真っ白な顔をして倒れた。




その日は雨も強くいつもよりは人通りが少なかったとはいえ、大通りだったお陰か事故を目撃した人は、何人もいた。目撃証言もみんな同じであった。
バス停に親子が立っていて、そこに蛇行運転の車がブレーキをかけた様子もなく勢いをそのままに突っ込んできた。先に気付いたであろう母親が隣で車に背を向けて立っていた娘を突き飛ばした。運転手も脇見運転、さらに直前にブレーキとアクセルを踏み間違えた事を認めている。
だが、名前の事故の記憶は違っていた。
ボールを落とし、拾う為に道路に出てしまい、自分の庇った母親が代わりに轢かれた。
確かに、名前はボールを持ったまま放心状態ですぐ近くに座り込んでいた。けれどもそのボールは名前のものではなく、事故直後に近くにいた子供が驚いて手から落としたボールが転がってきたものだった。
なぜ記憶がすり替わってしまったのかは分からない。
その事を知った名前の父親、祖父母、双子とその親、友達名前とその親、揃ってみんなは違うと名前に話したが、すり替わった記憶が戻る事はなく、専門のカウンセリングを受けた。そこでもやはり難しくはあった。カウンセリングは、それから数年続いている。

学校で倒れてから、名前から笑顔は消えた。球技の授業の時は、名前は別の授業を受けた。双子も友達名前も名前の前でバレーの話をしなくなった。






中学3年生の夏に入ろうとした頃だった。

「名前、高校決めた?」
「うん、一応決めてる。」
「稲荷崎やろ?俺とサムもおんなじや。」
「ううん、私は違うとこ。」
「えっ?」
「はっ?」
「なんでや!」

名前は、驚く三人にもう一度違う高校に行くとはっきりと伝えた。それはそれは大騒ぎになった。やれどこの高校だ、なんで同じとこ行かないんだ、と。名前がお嬢様学校として有名な女子校の名前を挙げた。その名前に、更に三人は悲鳴に近い声を上げた。なぜそこにと問われても、名前は一切理由を言わなかったのだが、いよいよ本格的に志望校を決める時期になると、友達名前にだけ、その理由を語った。

友達名前や双子からたくさんの優しさをもらい、そしてたくさん気を使わせてしまった事。記憶違いだったとは言え、何かの拍子にパニックを起こせばいつも必ず助けてくれた事。何よりも三人が大好きなバレーボールの話を一緒に出来なくなった事が嫌だと思う様になった。

「同じ高校に行ったら、絶対に私はみんなに甘える。ずっとこのままで良い訳ないなって。」

強くなりたいと名前は思った。また三人とバレーボールの話がしたいと思った。バレーボールをやる姿を見たいと思った。

「高校生の間に、侑と治、友達名前の試合を観る目標を立てたの。」

無理をしている訳でも焦りがある訳でもない。名前自身がそう自然に思える様になった。

「でも、あまりにも遠い学校はやっぱり寂しいから、違う高校とは言っても、ご近所さんの学校なんだけど…。」

やはり甘えが出てしまったと名前は照れた様な困った様な表情を見せた。

その話を聞いた友達名前は、志望校を変えた。名前は、友達名前の試合も観たいと言った。もちろんバレーは好きではあるが、もともと双子が楽しそうにやっていたから初めて、なんとなくそのまま続けていた程度だったので、高校でも続けるか迷っているところではあった。

「侑、治。わたし、名前と同じ高校受けるわ。」
「は?」
「わたしのバレーは中学で終わりや。まあ、たまに遊んではやる。」
「なんで上から目線なん。」
「煩い。とにかく!わたしは、名前と同じ高校入る為に、猛勉強せなあかん。じゃなきゃ受からん。」
「やろな。」
「勉強したところで、ほんま受かるんか?」
「受かるわ!受かってみせるわ!わたしは、名前と一緒におる。ってかおりたい。あんたらは、とにかくバレー頑張ってもっともっと強なれ。」
「お前に言われんでも、サムよりも強なるわ!」
「なんで、俺と比べるんや。アホか。」




2022.10.18




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