08




夏のインターハイが終わったが、稲荷崎高校のバレー部は、いつも通りに部活動を行なっている。3年生が帰った部室には、2年生と1年生が着替えを始めたところだった。

「明日やろ、みんな行くんか?」

尾白の言葉に、双子は何の事だと聞いた。

「祭りや。明日やで。」
「せやった!サムどないする?」
「………やきそば、たこ焼き、焼鳥、甘いもんもええな。」

侑は、名前を誘うかと聞いたつもりだったが、少し悩んで答えた治の言葉は、何を食べるかだった。角名は、さすがだなと笑ってしまう。そこで珍しく、北がみんなで行くかと声を掛けた。

「北、珍しいな。」
「せっかくやしと思ってんけど。まあ、彼女おらんやつらで行くか?」

彼女のいない人、その言葉を聞いた1、2年生の9割が一瞬で顔を伏せた。北と同じ学年の2年生であれば、ツッコめるのだが、1年生の部員はただただ悲しい表情をしていたのが面白かったのか、北はふっと笑った。

「そないな顔すんな。悪かったて。冗談や。」

そんなやり取りをしている部員達をよそに、侑は名前に電話をかけている。

「明日夜、空いとるやろ?」
『空いてない。』
「なんでや!明日祭りやで!」
『知ってる。行くもん。』
「はああ?誰とや!」
『友達名前と学校の友達。』
「なんでや!」

なんでと言われても、約束をしたからだと名前が言っても、なんでだとしか言わない侑に、名前は思わずため息が出てしまう。中学では事故のせいなのか、花火の音を嫌がり三年間祭りには行けなかった。だが、先日のバレー部練習試合を、名前は1試合のみだが問題なく見ていたので、もしかしたら行けるのではないかと侑は思った。侑の隣で着替える治に、名前が学校の友達と祭りに行くと言っていると騒げば、治はよかったと言った。

「祭り行けるようなったんやろ?よかったやん。」
「せっかくなら一緒に行きたいやん!」
「喧しい。おまえ、電話繋がったままやないん?」

治は侑の携帯を奪い、もしもし、と電話に出た。

「ツムが喧しいねん。」
『うん、聞こえてる。』
「祭りでもし会えたら、花火だけでも一緒に見いひん?もちろんお友達も一緒に。」
『友達は出会いが欲しいって言ってたから大丈夫だとは思うけど、友達名前はどうだろう。』

そこは、尾白になんとかしてもらうと言った。友達名前は、小学生の頃から尾白のファンなのだ。それは名前も知っている。尾白が来るなら大丈夫そうだ、と名前も了承した。きっと友達名前も久しぶりの尾白だろう。
名前は、治との電話を切ると、すぐに友達名前と友達に連絡をした。友達名前は、案の定といった反応ではあったが、名前が尾白の名前を出せば、仕方がないと言いながらも嬉しそうな声は隠しきれていなかった。。友達もみんな出会いが出来たと喜んでいたのでほっとした。



◇◇◇



名前達は、屋台を楽しんでいた。小学生以来のお祭りとあって、名前もそれなりに楽しんではいる。ただ、花火の音はどうだろうか。花火のドンという音が、事故の時の音と同じに聞こえてしまう。名前は、それを克服したのかと聞かれれば、答えることは出来なかった。けれども先日、双子の試合を見る事が出来た。時間の都合でたった1試合しか見る事は出来なかったが、名前は、双子を瞬きするのが勿体ないと思う程に見ていた。
侑と治のセットが決まると喜ぶ姿は、昔と変わらないな、と名前は思い出して笑ってしまった。双子を見ていると楽しい。

「な、なに…?」

視線を感じ顔を上げると、友達名前や友達が名前を囲うように立ち、微笑ましい表情を向けていた。

「名前ちゃんも笑顔増えたね。」
「ね。嬉しいなぁ。」
「で?名前はどんな思い出し笑いしとったんや?フッフ、名前のスケベ。」
「笑い方が双子そっくりだよ。」
「やめてや!!!」

頭を抱えて天を仰ぎながら叫ぶ友達名前に、ほかの友達二人は、誰の事?と分からず目をぱちくりさせながらも、心底嫌がる友達名前に笑っていた。

「見つけたあー!あー!なんで浴衣やないんや!」

その叫び声に、名前達が声の方へと顔を向けた。そこには、侑が指をさして名前達を見ている。それを、人に向けて指をさすなと北に手を下ろされた。

「チッ、もう見つかったんか。」
「友達名前、アランくんいるよ?」

はっとして友達名前は、舌打ちが聞こえてない事を祈った。名前は、侑と同じジャージを着た人達が、思っていたよりも多そうだと思い、脇に逸れて待つことにした。
現れた侑達は、みな同じジャージを着ていた。

「名前!待たせてごめんなあ。浴衣やないんか?」
「待ってないよ。待ち合わせしてた訳じゃないし。浴衣は持ってない。」
「んもー冷たい!」

侑はもちろん治もほかの部員達も、手にいっぱいの食べ物を持っている。治は人より多く、名前に分けてあげるから、少し持って欲しいとまで言ってきた。名前は、侑にこの中でいちばん偉い人は誰かと聞けば、北の事を教えてくれた。そして、名前は北へと挨拶に向かった。

「あの、北さん、初めまして。双子の隣の家に住む苗字と申します。今日、双子に見つかったら一緒に花火をって話だったんですが、この後ご一緒してもいいのでしょうか。もし双子から話が通ってないようでしたら、私達は別行動させて頂きます。」

名前は、無言でじっと見つめてくる北に少し怯えつつも、双子の先輩であれば迷惑はかけたくないと思い、きちんと伝えた。すると、ふっと笑顔になった北が話は聞いていると言った。

「大丈夫やで。あいつらが喧しかったんやろ?そっちこそ大丈夫なんか?」
「私も友達名前、あそこでアランくんに絡みに行ってる双子のいとこは、いつもの事なので慣れてます。友人にも了承済みです。」
「おっ、双子のいとこかぁ。」

尾白に話しかけている友達名前を見て、北は似ていると言ったので、本人には絶対に言わないで欲しいと名前は少し慌てた。それから北に他の2年生を名前と友達二人に紹介され、名前も友達を紹介した。その後名前は、角名へと声を掛けた。

「角名くんも巻き込んでごめんね。」
「ううん。俺も楽しみにしてたし。」
「それなら良かった。」
「双子のいとこさん、凄いね。」

尾白の側からまったく離れようとしない友達名前を面白そうに見ていた。全員が合流し、軽く自己紹介をしてから、また屋台巡りを始めたのだが、12人と大所帯になってしまった為、二手に分かれて購入後、花火を見る場所で合流となった。侑、治、角名、北と、大耳、尾白、赤木、銀島に分かれた。そのグループ分けを聞いた友達名前は、悩んだ末叫んだ。

「名前と4年ぶりの祭り楽しみたい!でもアランくんも捨てがたい!」
「そんな叫ばなくても…。久しぶりだし、アランくんと回ってきたら?花火は一緒に見れるしね。」
「んーーーーー!!……そうする。」

他の友達にこっそり名前が聞けば、銀島と角名と話したいと言ったので、名前が双子の方へと入る事でうまく分かれた。30分後に集合という事でそれぞれ別れた。

「あの、北さん2年生の皆さんと一緒じゃなくて良かったんですか?」

どうみても大耳たちとの方が楽しめるように思った名前は、なぜ双子達の方のグループに入ったのか分からなかった。

「これでええんよ。おれは、双子の監視役やからな。」

北はそう言って笑ったが、双子がスッと背筋を伸ばした。その横で角名が笑っている。同じ様に名前も顔を少し緩め納得した。

屋台を回っていれば、稲荷崎高校の生徒も多く、北はもちろん、双子も角名もよく声をかけられていた。とくに女子が多かった。その度に、不自然にならない様、屋台を覗くふりをして双子達と距離を空けた。もちろん双子が他の女子と話している姿を見たくないといった理由なんかではない。侑と治を当たり前の様に間違えながらも自分をアピールする女子に、名前は嫌な気持ちになったのだ。

「名前ちゃん、恋しとるん?」

一緒に回っていた友達にそう言われ、名前は一瞬何の事だと分からず言葉を詰まらせた。そして恋とは、好きって事だろうかと思ってすぐに否定した。

「え、私が?誰に?恋、してないよ。」
「そうなん?てっきり双子のどっちかの事好きなんや思った。」
「ないない、それこそない。双子の事好きだけど、恋じゃないよ。侑も治も同じ、私の事そういう対象で見てないし。」
「そっかあ。…でも、ずっと名前ちゃんの事、気にしとるよね。今やってあんな女子に囲まれとんのに、何度もチラチラ見とるよ。」
「そうなの?でもそれは迷子にならないかとか、そんな感じなんだと思う。」
「あははっ。うん、ごめんな、変な事言って。」

名前は首を横へ振った。友達は、囲まれている双子や角名、北を見て、まるで少女漫画に出てくるシーンみたいだと目をキラキラさせている。

「あんな風に女子に囲まれるのって、どんな気分なんやろ。」
「ね。私には分からないな。」
「でも、名前ちゃんも告白とかされた事あるやろ?友達名前ちゃんに聞いた事ある。」
「……この世には物好きもいるって事だね。」

なにそれと友達は笑った。そして実は恋バナをしてみたかったと友達は話を続けた。

「告白ってどんな感じなん?付き合うたりした事あるん?」

そんな食いつかれるような話は何も無いと言っても、友達は楽しいのか名前への質問が止まらない。漫画の様に、下駄箱に呼び出しの手紙が入っているのか、体育館裏などに呼び出されるのか、と。

「中3の時に1度だけだよ。それ以外はないし。」
「どんなんやった?」
「朝、下駄箱にメモ入ってて、よく分かんなくてとりあえず放課後書かれた場所に行って。」

確か中庭に呼び出されたと名前は思い出した。その時のメモが本当に分からないかった名前は、友達名前にメモを見せて聞けば、他の人には見せたら可哀想だからダメだと言われた様に思う。放課後、一人で言われた場所に向かえば、隣だったか隣の隣だったかのクラスの男の子がいて。顔を真っ赤にして、好きです、付き合ってくださいと言われた。

「え、それで?なんて答えたん?」
「知らない人だし、ありがたいけど断ろうと思ったの。そしたら、治がたまたま来たの。」
「え?治って、双子?」
「そう。」
「何しとんって。」
「………え?偶然?」
「うん。偶然みたい。」

それを聞いた友達は、それは絶対に偶然ではないのではと思ったが、言葉にしていいものか分からず飲み込んだ。それでどうなったのかと聞いた。

「侑と友達名前が喧嘩してるから、早く止めに行ってくれって。あの二人の喧嘩、本当に大変だから。急いで止めに行ったよ。」
「………返事は?」
「返事?あ、うん、後からするの忘れたと思ったけど、何も言ってこなかったから、いいのかなと思ってそのままだったと思う。」
「そっか…へぇ。」
「ね、少女漫画とぜんぜん違ったでしょ。」

喧嘩は大丈夫だったのかと聞けば、名前がついた頃にはめずらしく喧嘩は収まっていたようで、二人とも部活の用意をしていたと名前は言った。

「なあんの話しとんのや?」

囲んでいた女子達がいなくなったのか、名前の頭に手を乗せた侑が楽しそうに声をかけてきた。それに対して名前は、別にとだけ答えた。隣にいた友達は、チラリと侑を見れば目が合う。そして一瞬だけニヤリとの表現が合うような笑みを見せ、侑の視線は名前に戻った。やっぱりそうか、と友達は確信したが、名前には知らないふりをした方が良さそうだと思った。

「治は?」
「あっちの屋台で買うてる。」
「治の食べ物持ってるから、私が買えない。侑、持ってて。」
「はあ?あいつ、名前に持たせとんの忘れとるわ、きっと。」

侑は名前から治の食べ物を受け取ると、治を呼び渡しに行った。これでやっと買えると名前も屋台に並んだ。






「そろそろ待ち合わせ場所向かうで。」

そう北に言われ、携帯の時計を見れば待ち合わせ10分前になっていた。待ち合わせ場所の神社に向かえば、尾白と友達名前の声が聞こえてくる。

「人ぜんぜんいないんだね。」
「せや。こっからよう見えるんやけど、みんなここまでの階段で挫折するんや。よう登ってこれたな。」

言われてみれば、この長い階段の途中にはたくさんの人が立っていたり座っていたりしたが、登るにつれて人は少なくなっていた。名前も友達も息は切れている。

「名前、ここ座り。」

周りを見れば、みんなそれぞれ腰を下ろしている。名前も治に言われた通り隣へと座った。そしてその隣には当たり前の様に侑も腰を下ろした。

「サム、もっと詰めろや。」
「あ?ギリギリや。」
「食いもんありすぎなんや!」
「煩いわ。あ、名前のそれ、一口ちょーだい。」
「お前の一口デカいから嫌やて。」
「はあ?ツムには言っとらん。」
「ちょっと。私挟んでけん…。」

一発目の花火が上がった。ドンという大きな音だった。その音に、名前は持っていたフランクフルトを落としそうになった。落とさずにいれたのは、その手を侑がぎゅっと握っていたからだった。そしてもう片方の手を治が同じく握っている。

「名前、見てみい。花火の音やで。」
「よお見えるやろ。一発目やったから、デカくてびっくりしたな。」

侑と治の声に、名前は頷いた。二発目の花火が上がれば、それに続けと言わんばかりに次々と色や形の違う花火が上がる。

「びっくりした。」
「俺もびっくりしたわ。」
「せやな、ソレ落とさんで良かったわ。名前、ちょーだい。」

双子のいつも通りの声色に、花火だと分かれば名前も直ぐに落ち着いた。

「二人ともありがとう。」
「なにがあ?」
「名前、フランクフルト。」

ふっと名前は笑った。そして久しぶりの花火を楽しんだ。








「さっきな名前ちゃんに中学の時の告白の話聞いてん。あれって…。」
「ああ、治が偶然来たやつ?」
「そう。偶然、ではないよね?」
「フッフ、せやろな。わたしがポロッと話してもうたんよ。あいつら、まだ名前は嫁に出さん!って。」
「え、父親目線?」
「その言葉聞くとな。でもよう分からん。それから毎日名前の下駄箱チェックが始まったわ。手紙が入ってたら、抜き取るし、机もチェックしとったんやないかな。直接呼び出そうとした奴らは、その直前で双子に連れてかれてる時もあったし。」
「え…。名前ちゃんは、1回しかない言うてたけど。」
「せや。名前は1回しか、知らん、だけや。」
「えっと、なんというんか…。」
「ヤバいやろ。あいつら。高校別になってほんま良かったわ。」




2022.12.11




monoGatari