09




ー 明日暇か?
ー 暇やろ?
ー 暇やな?

お風呂も出て薄めの小説を手に取ったところで、名前の携帯が立て続けに鳴った。全て侑からであった。

ー 暇じゃない

それだけ返信すれば、直ぐに電話が鳴った。

『暇やろ!』
「勝手に決めないで。」
『明日何するん?!』
「出掛けるの。」
『どこにぃ!』
「合コン誘われた。」
『…………はああああああああ!?』
「ふっ、電話と家の両方から侑の声が聞こえる。」

一度誘われた際には断ったのだが、体調不良のドタキャンが出てしまい、頼み込まれた名前は、きっと二度と行く事もないだろうし、社会勉強のつもりでと了解をした。ぎゃあぎゃあ騒ぐ侑に、側にいるであろう治がキレる声が聞こえる。

『名前?何しでかしてん?』
「治?私は何もしてない。」

治の後ろで侑が合コンだと騒ぎ出せば、治の声もいつもよりほんの少しばかり低くなった。

『合コン行くんか。』
「ああ、うん。誘われたから行ってくる。」
『お前、合コンって何するか知っとんのやろな?』

そんな凄まなくてもと名前は思いながら、知っていると答えた。さすがに知らない程子供ではない。

『明日、無事帰ってこれると思うたら、大間違いやかんな。』
「え、私、明日駅前だから、普通に帰ってこれるけど。」
『どうしても行くんやな。』
「治、大袈裟。合コンだよ?行った事あるでしょ?」
『………わ。』
「え?」
『ないわ!』

そこで治も名前もしばらく無言になってしまった。

「………ごめん。花よりだんごの治が羨ましがってたとは気付かず…。」
『ちゃうわ!羨ましがっとらん!』

名前は、先に経験してしまって申し訳ないと何度も謝り、騒ぐ双子を無視して電話を切った。













カラオケのトイレで名前は大きな溜息が出てしまった。何が社会勉強だ、やはり来るべきではなかったと後悔している最中だ。相手は大学生だったので、落ち着いた感じかと思いきや、一言でいえばチャラいだった。鞄から携帯を取り出し時間を確認するも、入店から30分しか経っていない。残り1時間半、名前にはまだまだ道のりは長い。はぁ、ともうひとつため息を吐き、いつまでもトイレで隠れているわけにもいかなく、部屋へと戻ろうととした時、携帯にメッセージを受信した音が鳴った。確認すれば、思った通りの相手である。

ー どこおるん?楽しんでるんか

その問いに、本音は直ぐにでも帰りたいが、昨日の電話のやり取りがあった手前、そんな事は言える訳もなく。

ー 駅前のカラオケ。すごく楽しい

そんな風に返信してしまう。そのまま携帯を鞄にしまい、トイレから出た。

「お、やっと出てきた。」









「どや!角名!」
「似合ってるよ。侑も治も。…で?どこに向かってるの?」
「フッフ。お迎え行かんとな。サム。」
「せやな。ツム。」

双子が揃ってニヤリと笑う姿に、角名は面倒な事に巻き込まれるのかとこっそりとため息を吐いた。
ここだと言われた場所はカラオケ店で、双子はそのまま入ると受付を通り過ぎた。先に歩く侑が角を曲がろうとしたところで、直ぐに体を引き戻し隠れれば、治はそこからこっそりと顔を覗かせ何かを確認している。

「ねぇ、何してるの?」
「しっ!名前にバレてまう。」
「は?」

角名もそっと角から顔半分を出せば、ほんの2m先のベンチに名前らしき女性が座っているのが見え、慌てて顔を引っ込めた。らしき、というのは、ちょうどこちらに少し背を向ける形でいる為、顔が見えない。

「どういう事?隣のあのチャラい奴誰?」
「合コンらしいで。」
「は?合コン?え、もしかして連れ戻しに来たの?」

双子は角名の質問に答えず、静かにしろとばかりに角名の口を塞いだ。

「そろそろ名前ちゃんの携帯教えてぇや。」
「すみません。」
「せや、これから二人で抜けへん?」
「すみません。」
「いやいやいや、すみません、やのぉて。」
「はぁ、すみません。」
「名前ちゃん、彼氏おらへんのやろ?やから、来とんやろうし。俺なってもええなって思っとるよ。名前ちゃんみたいにちっこくてかわええ子、好きやねん。」
「はぁ、いや、大丈夫です。」
「大丈夫て、どっちやねん!」

名前はいい加減この場から戻らなければと立ち上がれば、ぐっと腕を掴まれた。その瞬間、気持ち悪いと思わず掴まれた腕を振り払ってしまった。そして、それをそのまま表情に出してしまう。これ以上はもう無理だと思い、友達に謝らなければと考えた時、また腕を取られた。先程よりも強く掴まれた手は、なかなか離れない。

「離し…」
「名前ー!!!俺ん事、捨てんといてやあー!」

名前を掴む手を振り払って、新たな腕が名前に絡まる。驚いてその手の持ち主を見れば、一瞬誰だとまた驚いた。

「え?あ、侑?」

そこには、数日前まで黒髪だったはずだが、今は金髪になった侑がいた。それから数秒後、もう片方の腕を掴まれれば、そこには侑と同じく黒髪だったはずの治が銀髪になっている。

「名前、俺が一番や言うたん忘れたんか!」
「お、治?」
「何言うとんねん!サムやなくて、俺が一番や!」
「はあ?何寝ぼけた事言うとんのじゃ!」

どうなっているのかと名前はポカンとしていれば、面白そうだとこっそりと動画を撮っていた角名まで仲間に加わってしまう。

「少しは静かにしなよ。名前さんのタイプは、背が高くて物静かで聡明な人、それって俺の事でしょ?」
「はああ?何言うとんのじゃ!角名!」

それを聞いた双子は、演技だという事も忘れて喚き出す双子の頭を角名は軽く叩いた。

「あれ?お兄さんは名前さんの何番目の彼氏ですか?あ、違いましたかね。お兄さん、名前さんの好みとかけ離れすぎてましたね。勘違いしてすみません。」

そう角名が言えば、名前の腕に縋り付くようにしていた双子が立ち上がった。180cm超えの男三人に見下ろされた男は、三人の圧に押され一歩後ろに下がる。

「別に、こんなちんちくりん興味ねぇし。はっ、とんだアバズレやな!」

そう言ってその場から去った。

「あ…アバズレ…初めて言われた。」

腹を抱えて笑う双子と申し訳ないけど笑ってしまうと言った感じでクスクスと笑う角名を軽く睨むも、助かった事には変わりないので三人への文句を名前は飲み込んだ。

「名前、どーするん?」
「さすがに戻れない…友達に連絡する。」

その場ですぐに電話をすれば、誘ってくれた友達が部屋から出てきた。状況を説明し四人で頭を下げれば、無理矢理連れてきたのだし、何も気にしないで欲しいと優しい言葉を貰いほっとしながら四人でカラオケ店を出たら。

「どや、名前!俺の演技、上々やったろ!イケメン俳優、いけんやないか!?」
「喧しいわ。お前がイケメンなら俺もイケメンやな。」

名前はそんな双子に角名が一番良かったと言えば、声を揃えてつっこんだ。

「それにしても、その髪どうしたの?」

双子の髪色を問えば、忘れてたとばかりに見せつけてきた。髪を染めた理由は、夏のインハイでの出来事だった。二人揃ってレギュラーだったが、咄嗟の判断が必要な時に、メンバーが一瞬で判断が取りにくく、何度か間違えそうになる場面があった。何かいい方法はないかと、それなりに大きい問題となり、分かりやすく髪色を変えるという話が出た為変えたそうだ。

「金と銀。派手だね。」
「どや?似合うとるやろ?これ見せたかったんよ。」
「侑にも治にも合ってる色だと思う。」
「ツムは、ポンコツからチャラポンコツになっただけやんな。」
「喧しいわ!俺がポンコツなら、サムも同じやろがい!」

なぜすぐに言い合いになるのかと名前は呆れつつ角名へと自然を移した。

「角名くん、また巻き込みごめんなさい。」
「ううん。俺も結構楽しんだし。動画いる?」
「それならよ…くはないけど、良かった。動画はいりません。」




2023.01.04




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