01:薬園の雑用係と出会い



「なぁ、名前。今度手伝いを一人連れてきてもいい?」

突然、目の前にいた粂野さんにそういわれ、私は地面の雑草を抜いていた手を止めた。

「え?手伝いは大歓迎ですけど・・・。珍しいですね、粂野さんがそんなこというの」

ここは鬼殺隊の蝶屋敷有する土地の中の一角の薬草園。
私はこの薬草園を世話している隊士だ。
・・・隊士っていっても刀は触れないし、学もない。
一応「癸」をいただいているものの、要は薬園の雑用係。
ただ植物を育てることは得意でそのことをカナエ様に気に入られ、ここで毎日土いじりをしている。
顔をあげて目の前の粂野さんの顔を見た。
彼も手を止め、人のよさそうな笑顔を私に向ける。

うう、その笑顔はいつみても癒される。天使。

「うん、すごくいいやつだから名前にも紹介しとこうと思って」

「そうなんですね!でもこの雑草いじりをしたい、なんてかなり稀な人じゃ・・・」

自分で言っていてなんだけど、すごく地味な作業である。
それに、夏は暑いし虫がでるし、冬は寒くて水仕事が辛い。
特に女の子には手伝いでも毛嫌いされる。

「はは、そうだね。でもやってみないとわからない楽しさもあるだろ?」

だからこそ、こうやって笑顔で草をむしってくれる粂野さんは貴重な存在なのである。
ほら、この蓬もそろそろいい感じじゃないと植物の成長の楽しみまでわかってくれている。

本当、天使。

「大体、今日の作業は終わったかな」

「そうですね、最後に水まいてかえりましょう」

まがった腰をたたきながら立ち上がると粂野さんが笑った。

「俺より年下なのに、腰が痛いの?」

「ううぅ、ひ弱な私には辛いです」

「じゃぁ、水汲みは俺が行って来よう」

そういって粂野さんは私の手から桶をとって井戸のほうに歩いていった。
これが一人だったら、ひいひい言いながら水を運んできたんだろうな。
じーんと心が温かくなる。

本当に粂野さんは天使のような存在だなぁ。

ーーーーー

どうしてかなぁ。

その天使が連れてきたのは柄の悪い不良だった。
顔や体の傷と、切れ散らかしてる目に一歩引く。

「名前!こちらが話してた不死川 実弥だよ」

「・・・・・名前です」

「匡近ァ、誰が草むしりなんかするって言ったんだァ?」

いやいや、ものっそい怖い顔してるし、怒ってますし。
一番草むしりから遠そうな人では・・。
どうしてこの人を選んだの・・。

「実弥、意外と草むしり楽しいぞ。植物も日々成長が楽しめるしな!」

なぜか興奮気味に説明する粂野さん。
ふりょ・・・不死川さんは、はぁ???という顔をして、盛大なため息をついた。
そうだよね、草持ってるよりも木刀持っているほうが似合いそうだもの。

「なんだろう、なんか無心になれるんだよね。草むしりしてると」

すごく心が洗われるよと、粂野さんは笑顔でいった。
その顔を睨みつけるふりょ・・・不死川さん。

「・・・・・・帰る」

「え」

「え、ちょっと!!実弥!!」

そう言って、粂野さんが止めるのも聞かず、すたすたと不死川さんは帰って行ってしまう。

「ごめん、名前!ちょっと実弥と話してくる」

粂野さんも慌てて不死川さんを追いかけていってしまった。
ぽつりと残された私は二人の影を追いつつ、姿が見えなくなるとまた草むしりに戻った。

(私一言も会話してないなぁ・・)

二人の謎な組み合わせに思いをはせつつ、雑草を引っこ抜いた。

ーーーーー

次の日。粂野さんが昨日はいなかったから、水汲みまで一人でやった。
もともと一人でやる仕事なので、特に大変だとかはないけど、ただ自分の体力のなさを恨むばかりである。
今日は筋肉痛なのか体が痛い。でも今日はうれしいことがある。

「名前」

「カナエ様!!」

ニコニコとした笑顔でカナエ様がやってきた。必要になった薬草を摘みにきたのだ。

「お世話ありがとう。いつも植物がいい状態で助かるわ」

「とんでもないです!!」

私の薬園を見渡しながら、カナエ様は微笑んだ。この仕事の最高の瞬間である。
そして私が唯一この鬼殺隊で役に立っている瞬間でもある。

「こんな広いのに一人でお世話大変でしょう?誰か一緒に仕事できればいいんだけど・・」

「いえいえ、一人で大丈夫です!私にはこれくらいしかできませんから」

そういうとカナエ様はふっと微笑んだ。

「その『これくらい』が私にはとても大切だから。いつもありがとう」

「いえ!それに最近は手伝いにきてくれる人もいてー「名前ー!」

私が言いかけると、それと重なるように薬園の入り口から名前を呼ばれた。
振り返ると粂野さんと、ふりょ・・・不死川さんの姿もあったので、私は驚いた。

「まぁまぁ。あの二人が手伝いの二人?」

面白そうににっこりとカナエ様は微笑んで、「じゃぁ私はこれで」と去って行った。
代わりに粂野さんと不死川さんがやってくる。
にこにこの粂野さんと対照的に、不死川さん・・・顔が死んでる。
何があったの。

「胡蝶様が薬草とりにきていたんだね」

相変わらず天使の笑顔はまぶしい。

「そうなんです!植物の状態が良いってほめられました。粂野さんいつもありがとうございます」

粂野さんへ頭を下げ、そして私はちらりと不死川さんを見た。

「あァ!?俺がいたら悪いってのかァ!?」

青筋を立てる不死川さんをみてさっと血の気が引いた。
いや、悪くはないけど・・どうしたんだろう。

「あれから話をして、実弥もぜひ薬園手伝いたいって話になったんだ」

「へぇ・・・そ、そうなんですね」

笑顔が相変わらずまぶしい粂野さんの横で、俺はそんなこといってねェ!と全力で不死川さんが否定している。
ですよね。私もそんな気がしていました。

「まぁまぁそういわず。名前、こっちの草むしり終わった?」

「あ、はい。あとは向こうの区画だけです」

「じゃぁ俺と実弥で草抜きしてくるから、名前は水やりの準備をお願い」

ギャーギャーといっている不死川さんの背中を押して粂野さんは向こうの区画に行ってしまった。
水汲みの樽を取りに行きつつ、どうなるんだろうと不安がよぎる。
さっき使った鎌、片づけたっけ。
不死川さん、怒って薬草全部切ったりしないかな。
そんなことしたら今までの苦労が水の泡になってしまう。
ちらりと二人のほうを見るとしゃがんだ二人の背中が見えた。
信じられないけど、一緒に草むしりしてくれているようだった。
笑顔の粂野さんの横顔が見える。
夕日と重なった二人に心がほっこりした。


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