10:月明かりと告白



結局、そのあと3人で食事をし解散することになった。
蝶屋敷とは反対側に屋敷があるという冨岡様とは門のところで別れた。
私の帰りは実弥さんが送ってくれるという。
丁寧に断りを告げるが、女一人で帰せるかァ!と怒られた。
むしろ実弥さんに食べられてしまわないか心配です。
とは言えなかったけど。

さっきのことが思い出され、赤くなってしまった顔をみられないように並んで歩く。
今日は、満月なのか、照らされた夜道が明るい。

「今日は明るいですね」

「そうだなァ」

特に会話もないが、二人で並んで歩く。
薬園でしか普段会わないから、とても新鮮で私は思わず笑みがこぼれた。

「へへ」

「何一人で笑ってんだァ、気色悪りィ」

「実弥さんと並んで歩けるなんて、うれしいなと思って」

そういうと実弥さんは驚いた表情をしたけど、お前はよォと小さくつぶやいて。

「ん」

と私に左手を差し出した。

「ん?」

私もそのままその手に自分の右手を重ねる。
その手を握り締めて、実弥さんは歩き出した。

「さ、実弥さん?」

「着慣れない着物で転ぶといけねェしなァ」

意地悪そうに笑う実弥さんの表情が月明かりに照らされる。
銀髪が輝いて、光を反射して光っているみたい。
見惚れてしまいそうな気持ちを抑えつつ。
握られた熱い手をギュッと握り返した。

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このままずっと歩いていたかったけど、残念なことに家についてしまった。
いつもだったら長い道も、実弥さんと一緒だったからか短く感じる。

「今日はありがとうございました」

家の前で手をそっと離し、深々とお辞儀をする。
返事がないので、変だなと思って顔を上げる。
実弥さんは酔いがさめたのか、優しい表情でこちらを見ていた。
ああ、その優しい目が好き。

「・・・今日は悪かったなァ」

「?・・あっ!」

一瞬なんのことを言われているかわからなかった。
が、すぐに先ほどのお屋敷で二人きりの時の事を言っているんだと思い当たった。

「それは・・き、気にしないでください」

先ほどの事が思い出されて、顔が熱を持つ。
指先まで熱くなってきてギュッと手を握った。


さっき。

実弥さんの事が好きなんだって自分の気持ちに気付いたけど。

この気持ちを彼に私なんかが伝えていいものか。

伝えたところで困らせるだけじゃないだろうか。

甘い返事なんて期待していない。


でも。

粂野さんに会えなくなったあの日。

今思い出しても寒気がする。

明日、実弥さんに会える保障がないなら。

今この恋心に決着をつけておくべきじゃないのか。

そう思うと、私は一つ深呼吸をして実弥さんの顔を見つめた。


「あ、あの!」

「わ、私、実弥さんのことがす―

言葉は最後まで紡げなかった。
その前に実弥さんが私を抱きしめたから。
実弥さんの香りに包まれて、言葉が詰まる。


しばらく動けないでいると、そっと実弥さんは私を離した。
そのまま顔が近づいてきて、おでこにちゅっと口づけを落とされる。

「さ、実弥さん」

深い瞳に見つめられ、どうしても続きを言うことができない。
彼に言葉を発することを拒まれてるような気がした。

「じゃぁなァ」

一緒に来た道を帰っていく実弥さん。
いつも、またなって言ってくれるのに―。
寂しげな表情を思い出して、私はそれ以上声をかけることができなかった。


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