11:後藤さんと世間話



ある日の昼下がり。

「おっす。名前、元気にしてるか?」

「わー!珍しいですね!後藤さんお久しぶりです!」

隠の後藤さんが訪ねてきた。

以前、私が隊士になれないとわかった時に一度隠の仕事をさせてもらった。
結局、情けないことに隠の仕事も私はできなかったけど。
その時にお世話してくれたのが後藤さんだった。
彼は半分見捨てられたような私のことを気にかけて、時々薬園にきてくれる。

あと、もう一つ、彼が来てくれる理由がある。

「相変わらずゆるいなぁ、お前」

「へへ。そうでしょう」

「ほめてないぞ」

「え?そうなんですか?」

そういえばしのぶ様に頂いたもなかがあったかなぁと思い出す。
うちに来ますか?と聞けばいいと断られた。

「意外と俺も忙しいの」

「へぇ」

「お前、信じてねぇだろう」

じとっとした目で見つめられる。

笑うと、はぁとため息疲れた。酷い。

「・・・苗字さん。岩柱様の継子になったらしいぞ」

彼が薬園に来てくれるもう一つの理由は、私の兄の近況を教えてくれるからだ。
薬園で働くことになってから、私は隊士として働いている彼の姿を見たことはない。
兄にはずっと嫌われていたけど。
ただ、私はいつも兄のことを気にかけていた。
昔はいつも笑顔で私と遊んでくれていた。

私は兄が大好きだった。

今も怖いし会いたいなんて思えないけど、いつもどうしているのかだけは気になっていた。
後藤さんは、私たちが似ているから、と兄弟と気づいたらしく。
時々、世間話とともに、兄の近況を教えに来てくれている。

「まぁ、あの人もなんだかんだ元気にしてるみたいよ」

「なら良かった」

「で、最近また、お前、色々と噂になってるぞ」

「?なにがです?」

「柱さまたちと仲良いらしいじゃん」

「別に仲良くはないです。仲良くしていただいているだけ」

「それだろ!癸がでしゃばってるって噂になってるぞ」

「それ悪い意味の噂じゃないですか!また絞められます」

「またって、前もあったのな」

「少し前に」

「お前も大変なのか」

「ぼちぼちと」

私が笑うと、なんとなく後藤さんは納得したような顔をした。

「じゃぁ、俺もう行くわ」

「もう?仕事、大変なんですね」

「そうだよ!大変なんだよ!色々と。またな」

「また!後藤さん、いつもありがとうございます!」

手をふる名前と別れて。

「ったく、兄妹そろって気にし合ってるなら自分たちで確かめろっての」

小さなつぶやきは名前に聞こえることはなかった。


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