粂野さんと実弥さんの話
「なぁ。実弥。植物に興味ない?」
「はあァ!!??」
目の前でにこにこと笑う男は粂野匡近。
俺の兄弟子でもある男だ。
屈託のない笑顔の男だが、時々突拍子もないことを言い出す。
「逆に聞くが、興味ありそうに見えるかァ!?」
「うん、なさそうだよね。で、ここの蝶屋敷の南端にさ、薬園があるんだよね」
「お前話聞いてたかァ?」
「俺、そこの手伝いしているんだけど」
「オイ」
「実弥も一緒にしないかなーと思って」
雑草抜き楽しいよ、と軽くいう男に俺はがっくり肩を落とした。
全く俺の話を聞いていない。
「この俺がそんなことやると思うかよォ」
「あまり想像しにくいけど、はまったら好きそうかなって」
なんだ。何がいいたいんだ。こいつは。
俺に雑草抜きが似合ってるとでもいいたいのか。
「・・・・それにさ。落ち着くんだよね。」
「?」
急に男は俺から目を外し、遠くを懐かしげに見つめる。
「あそこにいるとさ。土いじってると、落ち着く」
―なんだ。何をみてる。
「だから」
きれいな黒い瞳が俺をとらえた。
「実弥にも一緒にきてほしい」
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行って、作業してわかった。
匡近が言ってるのは土いじりじゃない。
彼女だ。
薬園にいる彼女はとろいやつだが、なんだか不思議なやつだった。
妹みたいと言ったら彼女は怒るだろうか。
「あそこにいると落ち着くんだよね」
薬園の帰り、暗くなった道を歩きながら匡近がぼそりとこぼした。
確かに彼女の周りの空気はいつも暖かい。
「・・・言いたいことはわからなくもない」
こちらもつぶやくように返せば、国近はまたいつもの笑顔を見せた。
MONOMO