恋する乙女は天高し
※現パロ、同級生の2人※
私からテンプレのような「好きです!よかったら私と付き合ってください!」って告白をして。
「いいけどォ」ってどっちともつかないような返事をもらって、付き合うことになったのが2週間前。
正直、不死川くんから良い返事がもらえると思っていなかったので、本当に天にも昇るような気持ちで嬉しくて、完全にのぼせ上っていた私は「付き合う」ということがどういうことかよくわかってなかったのかもしれない。
付き合うとなった後も、平日はクラスが違うし、お互い部活も忙しくなかなか会える機会がなかった。
休み時間とかに不死川くんの姿を見つけて声をかけようとすれば、ふと何かにつけて彼と視線が合わない。
タイミングが悪かったのかも、と思ってその時は気にしなかった。
一緒にいる時間がほしくて、部活終わりに彼を待っていたら、部室から出てきた彼は私を見つけるなりすごく動揺した様子で、私の先をぐいぐいと歩いていってしまう始末。
校門を出てしまった彼を小走りで追いかけて、途中で彼に並んだ。
また視線があちら方向を向いていて私と、合わない。
流石に鈍い私でも分かる。
これは避けられている。
私は不死川くんと付き合っていて、彼女のつもりだったけど、不死川くんの中ではそうではなかったらしい。
告白の時に間違えて変な返事をしてしまったから、私の事を無下にもできずに困ってしまっているのかも。
まだ付き合って数日だというのに、当初のような嬉しさはなく私の心は水の奥底に沈んでしまったようだった。
一緒に歩く足取りも重い。
私からは別れるなんて言いたくなかったけど、もしかしたらそのうち彼から切り出されてしまうかもしれない。
その前に私は思い出の一つも作りたかった。
無言で歩き続ける中、私は話しかけた。
「不死川くん、今度の週末に水族館にいかない?」
私はイルカが大好きで、水族館にデートで行くというのが憧れだった。
隣を歩いている不死川くんは、何故か一瞬驚いたような表情をして黙ってしまった。
「・・・あー、今週末は予定あんだよォ」
あ、これはデートも断られちゃうなと、グッと手を握りしめた時。
「ら、来週ならァ」
との返事をもらって、翌週の土曜に水族館デートが決定したのだった。
お姉ちゃんにその事を伝えたら私よりも張り切ってくれて、デート当日はいつもまとめている髪をおろして軽くコテで巻いてくれた。
少しお化粧してくれ、姉ちゃんの少しヒールの高い靴も借りて。
「めっちゃ可愛いから楽しんでおいでー!」と送り出してくれた。
お姉ちゃんに手を振りながら家から胸を弾ませながら出発したのが朝のこと。
時間までもう少しあるけど、駅に着いたので約束の場所まで向かうといつもの銀髪が見えてその時点で私はドキドキが止まらなくなった。
不死川くんはいつもの制服姿と違い、コートを羽織ったシンプルな格好だ。
普段着は見たことないので、とても新鮮だし、最近寒くなったからマフラーにコートがとても大人っぽい。
携帯を扱っているから私にはまだ気付いてないみたいだ。
私の髪、くずれてないかなぁ。ちょっと心配。
「不死川くん!お待たせしました!」
走って近づけば、不死川くんは「おー」と返事をしつつ手を上げかけて、途中でその手が止まった。
あれ?どうしたんだろうと思って目の前までに近づくと、おろした髪をすくいあげられマジマジと顔を見つめられてそれだけで心臓が破裂しそう。どうしたんだろう。
「し、不死川くん?」
動かない彼に声をかけると、はっと気がついたように視線があった。
「あ、髪、変だったかな」
「・・・いや、可愛いからァ」
「ぇっ!あ、ありがとうございますっ!」
まさか、可愛いなんていってもらえるとは思っておらず何故かあたふたしてしまう。
学校では一緒にいても私ばかり話してて、彼は短い返事を繰り返すばかりだからそんなこと言われてとても嬉しい。
ふんわり笑うその表情は学校では見たことないもので、それだけで本当に不死川くんは素敵だから困ってしまう。
「じゃぁ、とりあえず行くかァ」
「うん」
返事をして歩き出せば、さりげなく車道側を歩いてくれるのにキュンとした。
今日1日、心臓が持つか本気で心配。
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水族館についてチケット売り場に並ぼうとする私を不死川くんが引き止めた。
「チケットは先に買ってるからよォ」
「!そうなんだ!ありがとう。お金を払うねー」
バッグからとりだしかけた財布を、不死川くんはバッグに押し込めた。
顔をあげれば、奢るって言われて私は焦った。
「や、悪いよ」
「いいからァ。中で何か食べるときに奢れよ」
そういわれて、私は仕方なく手を引っ込めた。
ううぅ、スマートすぎてどうしよう。
館内に入って入り口でもらった水族館のパンフレットを開く。
私の御目当てのイルカショーの開演時間を確認する。
「私、イルカショー見たいな。13時からだって」
「まだ時間あるな。先に館内見るかァ」
「うん」
言われて、水槽の展示の方に歩きだした。
館内は全体的に暗くて足元が見づらい。
いつもと違う靴だからこけないように慎重に下を向いていると、手が温かい感触に包まれた。
一瞬何が起きたか分からなくて手を見ると、不死川くんが手を繋いでくれていた。
異性を手をつなぐなんて初めてで、その手が不死川くんの手だってことに、半分パニックになっていた。
「し、不死川くん」
「下ばっか見てたら危ないだろうがァ」
そう言って一層握った手に力が篭る。
あぁ、汗かいてるのばれてないといいな。
「あ、ありがとう」
「おー」
いいんだろうか、なんだか本当に彼女みたいだ。
いや、今はそうなんだっけ。
そのまま手を繋いで館内を回った。
大水槽から、小さな水槽から、可愛らしい海獣たちの展示までたくさん歩き回った。
「少し休憩するかァ」
「うん」
開いていたベンチに座ると、歩き回って火照った体をさます。
朝は寒かったのに、歩き回ったのと時間が経って気温が上がったのか、コートを着ているのが少し暑いくらいだった。
「何か買ってくるからちょっと待ってろォ」
そういって不死川くんは返事をする前に席を立っていた。
数分して戻ってきた彼の手にはソフトクリームが2つ握られていた。
「チョコとバニラどっちがいい」
「バニラがいいな」
んっとバニラを差し出した彼を見つめながら、不死川くんはこんなにデートに慣れててすごいなぁと一人感心していた。
私なんて水族館に来たことはあるけど、デートなんて初めてだし、ましてや好きな人となんて初体験過ぎて、どうしていいかなんて全くわからない。
きっとモテるだろうから、デートなんてたくさん経験あるんだろうな。そう思うとなんだか寂しくなって、きゅっと口を結んだ。
スプーンですくって口に運べば甘い味とひんやりとした冷たさに癒されていく。
「美味しいー!不死川くんありがとう」
「おー。チョコも食べるかァ?」
「いいの?一口味見させて」
そういって自分のスプーンで彼のソフトクリームをすくおうとすれば、彼は自分のスプーンでアイスをすくいこちらに差し出してきた。
「え」
なにが起こってるか分からなくて固まっていると、不死川くんは不思議そうに見つめてくる。
「ほら、口あけろってェ」
と、彼にそういわれて反射的に口をあげれはスプーンはそこに収まって、私の口の中には甘いチョコ味が広がった。
これはアーンというやつだよね?しかも間接キスじゃない?
顔が赤くなりながら軽くパニックになる私をおいて、不死川くんはパクパクとアイスを食べている。
これが普通なのか、全く思考が追いつかないまま、私の手のアイスは溶けていった。
そうしているうちにイルカショーの開始の時間になってしまい、2人でショープールに移動する。
プールにつくとショーは始まっていて、座席はほぼ人で埋まっていた。
どこかショーが見れそうな場所はないか見回していると
「あそこ、少しだけあいてる」
そういって不死川くんに手を引かれ、後ろの方にある立見席に1人がギリギリ立てそうな場所を見つけた。
「ほらァ、俺はいいから。お前、ショーみたいんだろ?」
そういわれて、その隙間に体を押し込まれた。
私だけ悪いよ、と言おうと思った瞬間イルカが水面から飛び上がり、天井近くにあるボールに口先でタッチする。
歓声が上がり、拍手が沸き起こる。
イルカは水しぶきをあげ、プールに飛び込んだ。
弾けたしぶきにキラキラと光が反射してとても綺麗だ。
「わぁ・・・!」
そのあとも、息の合ったショーは続き、イルカが大好きな私は気づけば興奮してそのショーに見入っていた。
ショーの終演を告げるアナウンスが響きまばらに人が帰りだして、はっと現実に引き戻された。
「不死川くんも見てー」
振り返ってすぐ間近に不死川くんの顔があって固まった。
よくみれば私の体の両横にはガードするように不死川くんの腕があって、ずっと後ろから守ってくれているような、そんな体勢だったらしい。
まさかそんな近くにいたなんて。
そんな現実が受け止められなくて、パクパクと魚のように口を開け閉めすれば、不死川くんは至極当然のように笑って「楽しそうでよかったなァ」と頭にポンと手を置かれる。本当に心臓が止まるかと思った。
夕方、暗くなってきて、最後にこの水族館に隣接している観覧車に乗ろうと不死川くんを誘った。
高いところは苦手なんだけど、この観覧車から見える夜景がとっても綺麗だと事前のパンフレットで読んだのでぜひ見てみたいと思っていた。
問題はこの観覧車が数個に1つ、足元まで全部ガラス張りになっているゴンドラがあって、それにだけは当たりたくないと思っていた。
列に並んでランダムに乗っていくので、どのゴンドラに乗るかは順番が来ないとわからない。
「はい、次の方どうぞ!」
スタッフのお姉さんが笑顔でドアをあけたのは足元まで透明なゴンドラだった。
「うううぅ」
流されるようにゴンドラに乗り込んだものの、とっても怖い。
絶対足元見たくない。
「・・・・高いところ苦手なのかァ?」
真ん前に向かい合うように座っていた不死川くんは、震えて縮こまる私をみて見かねて声をかけてくれた。
「うん・・。景色はみたかったのだけど、まさかこの透明ゴンドラにあたると思っていなくて」
そう言うと、不死川くんは私の隣に座って、手を差し出した。
「握っておくかァ?」
水族館の中ではさっと握ってくれたのに、なぜか今の彼は少し迷ったような顔を向けた。
顔が赤いのは私の見間違えじゃないと思う。
「・・・うん、ありがとう」
その大きな手に手を重ねればどちらともなくギュッと握り締めた。
しばらくの沈黙の後、「あ、のさ」と不死川くんが口を開いた。
視線はこちらではなく、足元あたりをうつむいたまま見ている。
何かとても言いにくいことでもあるのかな、とふと思った時にさっと冷や汗が出てきた。
まさか、不死川くん、私との別れ話を切り出そうとしているんじゃないのかな。
そうだ、今日がとても楽しくて、不死川くんも優しかったからすっかり忘れていたけど、私、学校で避けられていたのだった。
一日が終わって、最後の思い出も作れたし、もうお別れなのかも・・。
そう思うと今日の楽しさと相まって、じわりと寂しさが広がっていく。
蝕むように心に広がった不安に、涙が溢れてきてつないだ手を握り締めたものだから不死川くんがこちらを向いた。
「っ!何泣いてんだァ!」
「だって・・私今からふられるから・・・」
「はァ!?」
意味がわからない、というように不死川くんは慌てて袖で私の涙をぬぐってくれる。
「俺がお前をふるって意味が分からねぇんだが」
「学校でも避けられてるし・・」
「それは・・・・」
しばらく、何か考えていたような不死川くんは口を開いた。
「・・・・は、恥ずかしかったんだよ」
「え?」
今度は私が変な声を出す番だった。
「つ、付き合うとか初めてで、他の奴らに見られるのが恥ずかしかったんだよォ」
「初めてなの?」
「わりぃかよ・・」
「いや、その割にはデートとか慣れてるなぁと思って」
「・・・色々と調べたんだよォ!」
そこまでいうと、はぁーと不死川くんは息を吐き出し、俯いてしまった。
「なんかかっこわりぃな、俺」
「え?」
「デートは背伸びしたけど。結局、そこまでお前に泣くほど思いつめさせて」
「そんなことないよっ!不死川くんはとってもカッコよくて私なんかにもったいないって今日も一日中、思ってたもん」
そういうと不死川くんは目を合わせて優しく笑った。
「名前・・」
繋がれていた手と逆の手が私の頬に触れる。
「あの告白してくれた日、ちゃんと返事できなかった事、悪かったァ」
「いいけどォ」、って返事したこと気にしてくれてたんだ。
「あ、いや、大丈夫だよ。返事もらえただけでも嬉しかった」
慌てて私は言ったが、不死川くんは真剣な目を逸らさない。
吸い込まれそうなほどに見つめられ、ボーっとしていると彼は口を開いた。
「だからァ、ちゃんと俺から伝えさせてほしい」
「俺は名前のこと、好きだ」
大好きな不死川くんの顔ばかり見つめていたものだから。目的の夜景がどんなものだったか、私は全くわからなかった。
MONOMO