12:鳥泣き声の風が吹く方



※モブ女が出てきます※









あの夜を共にした日から、実弥は長期任務で不在にしている。
出かけ際に少し寂しそうに瞳が揺れたことや、抱きしめられてやさしく口付けされた事実を名前はどのようにとらえていいのかわからなかった。

でも、行ってくると告げた実弥の淡く微笑んだ表情に胸が高鳴ったのは事実だった。







「へぇ。とりあえず、仲直りしたんだ」

先日酔いつぶれていたところを運んでもらった際の侘びとして、実弥は任務後に宇髄を食事に誘った。
目の前に運ばれてきた食事をつつきつつ、ほぼ前回の事の顛末を知っている宇髄に名前と仲直りしたとの話をすると、ニヤニヤと頬杖をついて見つめてくる。

「じゃぁ仲直りに派手にヤったのか?」

昼間から平然と言ってのける宇髄に、実弥は危うく口に運んだ食事を吹き出しそうになった。
口の中のものを必死に抑えつつもう少し聞き方があるだろうと思う。

「言いかたァ」

「仲直りってそういうことだろ」

そうなのか?よくわからないが実弥は短く「あァ」と返した。

「じゃぁ派手に好きっていったんだな」

なぜか満足げな笑みを浮かべて聞いてくる宇髄の顔をみて、実弥はぴたりと固まった。

「・・・・」

「え?まさか言ってねぇの、お前」

「・・・・言ってねェ」

今までの名前と過ごした時間を思い返したが、一言も、好きだ、愛しているだの言葉を発していないことに気づいた。

「お前さぁ・・」

ほんっと足りない男だな。

呆れはてたような宇髄の言葉を聞きつつ、実弥は冷や水を浴びせられたような気持ちになっていた。

「お前が求めているのは体だけの関係じゃねーだろ。それは伝えてやれよ」

深いため息をつく宇髄に実弥は何も言い返せない。




一度目は無理やりだった。
二度目は名前も自身のことを受け入れてくれてお互い同意の上で抱いたと思っていたがよくよく考えれば、自分の気持ちなんて伝えていないし、名前の気持ちも聞いていない。
自分は大切にしたい、名前を感じたいとの気持ちのままに伝え、彼女もそれを受け入れてくれたと思っていた。
が、今宇髄に言われたように考えれば、ただ、欲のままに彼女を抱きたいといい、彼女は素直にそれを受け入れたに過ぎない。
彼女は屋敷に来た時から従順に自分に仕えてくれていた。
前回受け入れてくれたのも、ただの女中の仕事の一環という認識だったのかもしれない。

前は名前に固執して、別に名前の気持ちが自身になくても、自分の近くに置くつもりだった。
でも今はそうではない。体も心も自身のものにしたいと思うようになってしまった。
名前に気持ちがないのにただの仕事として彼女は抱かれていたのではないかということは実弥にとっては甚だ心外だった。


固まってしまった実弥を見ながら、宇髄はまぁ、言っても別にお互い思い合ってるはずなのでそんなに問題ないかと思う。
色々これ以上拗らせる前に早く、その言葉を名前に告げてやってほしいとは思うが。




「それより」

声に実弥は顔を上げた。

「・・・藤宮さま・・だっけか。あの婚姻の話は断ったのか」

その名前を出されて、実弥の顔が一層曇った。




先日、実弥は何時ものように鬼狩りの任務にあたっていた際に一人の少女を助けた。
その少女は命を救ってくれた実弥のことを大層気に入り、婚姻を申し込みたいといってきたのだ。
普通であれば、即断って話が終わっていた。

問題だったのはその少女が藤の家を纏めている一家の一人娘で、お館様とも近しい親類関係だったことだった。
お館様を通して婚姻の話が来た際、実弥はその場で断ったのだが彼女はあきらめきれないようで何度もお館様に手紙が届いていたようだった。
実弥にとっては迷惑極まりない上、お館様にも事が及んで、頭の中痛い存在だった。


「実弥、藤宮がすまないね」

断りは何度もいれているんだがと苦笑いをしながら、また送られてきた手紙をお館さまの隣に座るかなたが手に取り、内容を読み上げる。

あきられめきれない。
お慕いしている。
再度会いたいー。

好いている相手からなら喜び打ち震えるような内容だったが、そうではない相手からとあって実弥は乾いた感情で内容を聞いていた。

「もし」

お館様は小さく声を発した。

「もし藤宮が会いに来ても断ってもらってかまわないからね」

私のことは考えなくていいからねと、優しくお館さまは微笑む。

「ただ、すまないね。藤宮は昔から体が弱いところがあって。そこは少し配慮してもらえると嬉しいよ」

そういわれ実弥は静かに「御意」と返した。



数日後。本当にどうやって知ったのかわからないが実弥が任務で町にいるときに彼女は現れたのだ。




「お前を追いかけて会いに来たって聞いたぜ」

宇髄が追加の食事を頼みながら、話を続ける。
眉間に皺を寄せながら、実弥は口を開いた。

「・・・断った。が、断りの話をした途端、倒れてうやむやになったァ」

至極面倒くさそうに、実弥はため息をついた。
さっさと目の前で断ってしまえば話が終わると思っていたのに、まさか倒れるとは思っていなかったからだ。
荒い呼吸を繰り返しながら、倒れてくる軽い体をとっさに支えつつ先日お館様が身体が弱いといってた話を思い出した。



その時はこんなに執着されるとは思っていなかったのだから。


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